姫様、お出掛けする
「村?」
「ああ。行くぞ。」
聞き返すアナスタシアにグリッドが答える。
「近くに村があるんですか?」
「まあ小さい村だがな。」
二人は連れだって外に出る。
「ここは……。」
アナスタシアが周囲の景色を眺める。
少し離れた場所には森林地帯が広がっており、家屋を挟んで反対側はなだらかな下り坂になっていた。
その下り坂の先に集落が視える。
あれがこれから向かう村だろうか。
どうやら今いる場所は、村から森林へかけての丘陵地にあるようだ。
アナスタシアは大きな籠を背負わされグリッドの後に続いて歩く。
「村に何か用事があるんですか?」
早く修行をつけて貰いたいアナスタシアが急かすように尋ねる。
「お前が一週間飲まず食わずでいいなら行く必要はないんだがな。」
「あ……。」
成る程、この籠はその為か。
アナスタシアは納得し素直にグリッドの後ろを歩く。
暫くすると村の入口に到着した。
「あら!?シスター!こんにちは!」
畑仕事中だった女性がグリッドを見つけ声をかけてきた。
「こんにちは。精がでますね。」
「え!?」
グリッドがニコリと微笑みながら返答したのを見てアナスタシアが驚く。
「おや?そちらのお嬢さんは?」
「ええ。実は国境付近で行き倒れていたのを見つけたのですが……どうやら記憶喪失らしくて。」
「えぇ!?うっ!!」
いきなり背負わされた偽の身の上に慌てるアナスタシアにグリッドが肘打ちする。
「まぁ!それはそれは。」
「ですから、回復するまで預かる事にしまして。」
「へ~。それは難儀な事ですね。お嬢さん、気を落とさずにね。シスターの元にいれば安心ですよ。」
「は、はぁ……どうも。」
「なんてったってシスターの薬草は良く効きますからね。病気や怪我もあっという間に治っちまう。」
「ふふふ。」
「たがらアンタもすぐに良くなるよ!」
「は、はい。」
「そうだ!これ持っていってくださいよ!」
そう言うと女性は収穫した野菜を差し出す。
「あら、よろしいんですか?」
「勿論!さあさあどうぞ!」
「ふふ。ありがとうございます。」
淑やかに礼を言うとグリッドは受け取った野菜をアナスタシアが背負う籠に入れた。
二人は女性に一礼すると村の中へと進む。
「あの~。」
「ん?なんだ?」
「さっきのは一体……。」
「正直に話す訳にもいかんだろ。」
当然だろと言わんばかりのグリッド。
「いや、それはそうなんですが。そうじゃなくて!なんか態度が……。」
小屋にいた時とずいぶん違うじゃないかという言葉を飲み込むアナスタシア。
「ふっ。こっちの方が色々便利なんだよ。」
グリッドがニヤリと嗤った。