姫様、駄々をこねる
「断る。」
「早っ!」
アナスタシアの頼みに尼僧が即答する。
「なんで私が。命が助かっただけでも良しと思え。」
「助けて貰ったのは勿論感謝してます。」
「ならさっさと荷物を纏めて……。」
「私……強くなりたいんです!」
「知らん。勝手になれ。」
「そのために貴女に教わりたいんだ!」
「人の話を聴け!」
「少しの間だけでいいんです!貴女の剣を教えて下さい!」
「お前なぁ……。」
尼僧がこめかみを人差し指で叩きながら呆れたように言う。
アナスタシアの真っ直ぐな視線を感じてかやや居心地悪そうだ。
「だいたいお前は仲間を待たせてるんだろ?そんな事してる場合か?」
「それは……。」
アナスタシアが口ごもる。
「で、でも!私、少しは強くなって皆と会いたい。」
「会いたいって言われてもな……。」
「私、今のままだと足手まといなんです。これからも一緒に旅をするためには強くならないといけないんです!」
「だから勝手になればいいだろ。」
「ヤダ!教えてくれるまで動かない!」
アナスタシアがテーブルに突っ伏ししがみつく。
「ヤダって、お前はガキか!いや、まだガキだったな……。」
尼僧は大きく溜め息を吐く。
「くそっ……とんでもない奴を助けてしまった。」
ボソリと呟く尼僧。
アナスタシアが顔を上げ尼僧を見つめる。
「……。」
「…………。」
「………………。」
「……………………。」
暫く見つめ合う二人。
先に折れたのは尼僧だった。
「はぁ……わかったよ。」
「え?」
「わかったって言ったんだ。」
「じゃ、じゃあ!いいの?」
「ああ。」
「ホント?教えてくれるの?」
「ああ。」
「あ、ありがとうございます!」
立ち上がり礼を言うアナスタシア。
「まあ、考えてみればせっかく助けたのにアッサリあの追手に殺されたんじゃ寝覚めが悪いか。」
尼僧が無理やり自分を納得させる。
「ただし、一週間だ。それで成長できなかったらもう知らん。」
「一週間……。」
「それが嫌なら半殺しにしてでも叩き出す。」
「わかりました!一週間で強くなってみせます!」
尼僧が何度目かの溜め息をつく。
「そ、そんな嫌そうな顔しなくても……。」
「はぁ……で?」
「で?」
「で、お前の名前は?」
「あっ……。」
そう言えばまだ名前も名乗っていなかった。
「ナ、ナー…………アナスタシア。」
アナスタシアは本当の名を名乗る。
教わる身として嘘の名を名乗るのは礼を欠くと思ったからだ。
(ジイも許してくれるよね。)
「アナスタシアか……。」
「あの、貴女は?」
「…………グリッドと名乗っている。」
「グリッド……先生。」
こうしてアナスタシアの弟子生活が始まった。
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