姫様のお願い
アナスタシアは尼僧を見つめて言葉を待つ。
「アルマデルってのは魔術書の名前だ。」
「魔術書?」
「ああ。それもとびっきり強力な……な。」
アナスタシアが棚に置いてあるアルマデルに視線を向ける。
「魔力を外に漏らさないようにかなり厳重な封印箱に入れてあるが、それでも隠しきれていない。」
アナスタシアは目を凝らして視てみるが尼僧の言う魔力とやらは感じられない。
「それはお前がまだまだ未熟だと言うことさ。」
まるでアナスタシアの表情が見えているかのように尼僧が言う。
「あの……。」
「ん?これか?」
またしてもアナスタシアの顔が見えているように尼僧が目に巻かれた布を取り去る。
「あっ……。」
布に隠されていた箇所は横一文字に大きく斬り裂かれていた。
「お前は分かりやすいな。」
尼僧がクックッと嗤う。
再び布を巻くと尼僧がアナスタシアに向かって言った。
「もう動けるならさっさとお仲間の所へ行け。生きていれば……だがな。」
「い、生きてます!」
間髪入れずにアナスタシアが言う。
「ほぅ。しかしあの男はかなりの手練れだったぞ。」
「だとしても!絶対生きてます!ジイは凄い魔術師だし、プリシアだって魔術で怪我治せるし、グレンは体術の達人なんだ!」
アナスタシアが捲し立てる。
「はぁ……はぁ……だ、だから……だから、みんな生きてます。」
「……。」
尼僧はじっとアナスタシアの言葉を聴いていた。
「成る程な。なら尚更さっさと行ってやれ。」
「は、はい。」
「ただ、あの魔術書は諦めろ。次に奴が来たら素直に渡せ。殺されるぞ。」
「そんな……ダメだ。私は約束したんだ。オッグスさんと。」
「そのオッグスとやらは土の下だ。」
「だとしても……。」
「命を捨ててまで果たす約束か?お前の仲間はどうなる?お前を探してるかもしれんのだぞ。」
正論である。
アナスタシア達にとっては行き掛かりでの事でしかない。
依頼主が死んだ今、命を掛けて……いや、命を捨ててまで果たすような約束ではない。
「………。」
黙ってしまったアナスタシアを見て尼僧が溜め息を吐く。
「ここを出てまっすぐ西に暫く歩けば関所に通じる路に戻れる。」
「……。」
「聴いているのか?」
「あの……。」
「ん?」
「貴女は……あの男を退けたんですよね?」
「ああ。」
「ってことは、すっごく強いって事ですよね?」
「ああ。」
アナスタシアも意識を失くす前に見ていた。
この尼僧はエドワードを翻弄していた。
その後何があったかは見ていないが、あのエドワードを一人で退けたのだ。
「あの!私を弟子にしてください!」
御一読頂き誠にありがとうございます。
良かったらブックマークやコメント、メッセージ等宜しくお願いいたします。