姫様、話す
食事を終えるとアナスタシアはお礼にと食器洗いを申し出た。
が、今まで城で姫として生きてきたアナスタシアである。
旅に出てからも雑事はほとんどプリシアがやっていた。
「お前……不器用過ぎるだろ。」
皿を4枚も割ってしまったアナスタシアに尼僧が呆れながら言う。
「ご、ごめんなさい……。」
アナスタシアが肩を落とし謝る。
「はぁ……まあ良い。」
尼僧に座るよう促され改めてアナスタシアは事情を説明する。
仲間との旅の途中でオッグスに護衛を依頼された所から森でエドワードに殺されかけていた所までを一気に話すと、尼僧はため息を一つ吐き懐から煙草とマッチを取り出す。
「なんとまぁ……。」
煙草を口に咥えるとマッチを擦り火をつける尼僧。
「煙草……。」
アナスタシアが呟く。
「ん?」
「あ、いや……修道女なのに……いいのかなって……。」
尼僧は煙を吐くと灰皿に灰を落とした。
「いいんだよ。神に遣える者にも娯楽や嗜好品くらい必要なのさ。」
「は、はぁ。」
今度はアナスタシアが尼僧に尋ねる。
「あの!アイツは!あのエドワードって男は?」
「逃げた。」
「え?」
「というか、一時撤退ってとこだろうな。」
「撤退って……。」
「あの様子じゃ諦めはしないだろうな。」
「ちょ、ちょっと!アイツを退けたんですか!?」
「ああ、それなりに深手は負わせたが殺してはいない。」
「そんな……。」
アナスタシアは驚愕する。
アイツを?
この人が?
一人で?
(いくら消耗していたといっても……。)
アナスタシアの表情が見えているかのように尼僧が肩を竦める。
「こらこら固まるな。」
「ご、ごめんなさい。」
「奴の目的の品だが……。」
「あっ!あの箱は!?」
「そこ。」
尼僧が棚を指差す。
(良かった……。)
アナスタシアが安堵する。
「あの……オッグスさんは?」
「その場に埋葬してきた。」
「そうですか……。」
アナスタシアは俯く。
「お前、あれが何か知ってるのか?」
「え?箱の中ですか?」
「ああ。」
「いえ、中に何が入っているかは知りませんでした。ただ、あのエドワードって男は"アルマデル"って……。」
「なるほど。中身を知らされずに運んでたってわけか。」
「はい……。あれはなんなんですか?」
尼僧が3分の1程吸った煙草を灰皿に押し付けた。
「あれはな……。」