姫様、気を失う
キィーーン!
甲高い金属音が森にこだまする。
(凄い……!)
掠れる視界の中、二人の闘いを見守るアナスタシアは驚嘆する。
尼僧はアナスタシアの剣を手にその場から全く動かない。
対してエドワードは四方八方から斬突を繰り出している。
「静」対「動」の闘い。
(強いっ……のか?)
エドワードはこの得たいの知れない相手に徐々に恐怖すら感じ始める。
百戦錬磨のエドワードは対峙した時点で相手の力量はある程度わかる。
それは放たれる闘気や魔力であったり、戦士としての勘であったり、様々な要因から推し量る。
しかし、この尼僧からは強者としての「気」というものが感じられない。
にもかかわらず、あらゆる方向から攻撃を繰り出してもこの尼僧は軽々と受け止め、捌き、かわしてしまう。
「ふふ、どうした?どんどん鈍ってきているぞ?」
(ーー!?)
心情を見透かされたように感じたエドワードは細剣を握る手に力を込める。
「そうだ。せっかくの魔装具、使わねばな。それだけの魔力が残っていれば……だがな。」
「おのれっ……!」
尼僧の挑発を受けエドワードが距離をとり細剣を構える。
「ほぅ……できるかな?」
「ぐっ……。」
エドワードが奥歯を噛みしめ冷静さを取り戻す。
(悔しいが奴の言う通りだ……。今の状態で魔力解放を行えば自滅しかねん。)
「残念。どれ程のものか気になるが……。」
「貴様、何者だ?只の尼僧ではあるまい。」
エドワードが何度目かの問いを口にする。
尼僧は微笑しながら人差し指を唇に当てた。
「貴様っ!」
「さて……もう退く気はないか?」
「なんだと?」
「そろそろ帰りたい。」
「目的を果たすまでは……退けぬ。」
「たいした忠誠心だ。しかし、これ以上やるなら火の粉は振り払わんといかんな。」
「笑止!」
エドワードが気合いと共に尼僧に斬りかかる。
アナスタシアはそんな二人のやり取りを薄れ行く意識の中で傍観する。
(くそ……意識が……。ま、まだ……。)
尼僧に治療して貰ったとはいえ、蓄積されたダメージと疲労でアナスタシアの身体は限界だった。
(ダメ……だ……意識が……。)
視界が白く染まる中でアナスタシアは最後に尼僧がゆっくりと剣を掲げる姿を見た気がした。