姫様、驚く
「なるほど。魔術書強奪事件の噂は本当だったのか。」
尼僧がエドワードに向かって言う。
「ーー!?」
エドワードが尼僧を睨む。
「貴様、何者だ。何故その話を……。」
「ちょっと小耳に挟んだだけさ。そう睨むなよ。」
二人の間に一迅の風が吹く。
「どうやら、このまま返すわけにはいかなくなったようだ。」
エドワードが尼僧に向かって言う。
「ほぅ、ならどうする?」
「共に来て貰おうか。」
「断る。これでもそれなりに忙しいんだ。」
尼僧の言葉を聞いたエドワードが一足跳びに間合いを詰め首に手刀を放つ。
(なにっ!?)
しかし、エドワードの手刀は空を切る。
「ずいぶん乱暴なエスコートだな。」
尼僧は少し離れた場所に立っている。
(速いっ!?この尼僧……何者なんだ。)
「ならばっ!」
エドワードは細剣を構え尼僧に斬りかかった。
エドワードの中にある闘いの勘が油断を捨てろと命令する。
この尼僧は何かおかしい。
今度は殺意の篭ったエドワードの攻撃だが、尼僧はヒラヒラとかわす。
「な、なんだ……なにが……!?」
霞む視界の中でアナスタシアは驚愕する。
突如現れた尼僧が、自分達が束になっても勝てなかった相手を翻弄している。
「ぐぅっ……なんという……!」
「なんだ?だいぶ疲れているじゃないか。それで私を捕らえらるか?」
舞うようにエドワードの攻撃をかわし続ける尼僧。
(信じられん!?この女……只者ではないぞ!)
尼僧は大きく跳躍し空中で回転し着地すると何かを拾い上げた。
「これはお前のか?少し借りるぞ。」
それはアナスタシアが落とした剣だった。
尼僧が軽く剣を振るうと、鋭い風斬り音がした。
「あ、貴女は……くっ……。」
「手を貸してやろう。お前は運が良い。」
尼僧が微笑する。
アナスタシアは訳もわからず尼僧を見つめる事しかできない。
「貴様、任務の邪魔をする気か?」
「ああ。そうさせてもらう。」
「何故だ?貴様には関係なかろう。」
「気にするな。ただの"嫌がらせ"だ。」
尼僧の言葉をきっかけにエドワードが凄まじい速さで斬りかかる。
甲高い金属音が響き、二人の剣がぶつかり合う。