姫様の一人旅?
ここは宿場町にある酒場。
まだ日が落ちて早いので客は疎らだ。
その中の一席にアナスタシアとヴォルフ、プリシアが座っている。
先程から憮然とした表情で切り分けたステーキを口に運んでいるのはアナスタシアだ。
町の入り口で二人に遭遇し、予想外の出来事に固まっていたアナスタシアだが、とりあえずゆっくり話ができる所に行こうということでこの店にきたのだ。
席に座るやいなや腹の虫が空腹を訴えたのでバツは悪いが夕食中というわけだ。
ちなみに一文無しアナスタシアに代わりヴォルフが支払いを済ませた。
「…………。」
色々聞きたい事はあるが言葉がでないアナスタシア。
そもそも何故この二人が?
自分を連れ戻すなら兵士達でもいいではないか。
100歩譲って自分を説得するために父に遣わされたとしてプリシアまで来させるか?
疑問はつきないが、先程から二人は静かにアナスタシアが食事を終えるのを待っているだけだ。
それが少し不気味でアナスタシアから話を聞けないのだ。
最後の一切れを食べ終えてオレンジジュースで流し込んだら、ようやくヴォルフが口を開く。
「さて、姫様。何故儂らがここにいるのかお知りになりたいと思いますが……。」
「ふん。どうせ私を連れ戻しに来たんだろ?プリシアまで連れ出してさ!」
そっぽを向きながら精一杯虚勢を張って答えるアナスタシア。
「いやいや、姫様。陛下からの御伝言を伝えに参ったのです。」
「伝言?お父様から?」
アナスタシアの頭上に疑問符が浮かぶ。
「姫様、まずはそれを聞いてからどうするか決めてみてはどうでしょうか?」
「プリシア……。」
いつものように優しくプリシアが諭す。
「う、うん。わかった。それで、伝言って?」
アナスタシアが促すとヴォルフが咳払いをして話し出す。
「うぉっほん!それでは…………。この馬鹿娘!」
アナスタシアがテーブルに突っ伏す。
「まったく、お前みたいな世間知らずが一人旅など無謀にも程がある!」
「ジ……ジイ……?」
「いやいや、これは陛下が仰っておったのです。」
一言断ってからヴォルフが先を続ける。
「おおかた、魔物討伐の件で調子に乗ったんだろう?それがまだまだ子供だというのだ!お前みたいな小娘が勇者の真似事などちゃんちゃら可笑しくてヘソが茶を100杯は沸かすわい!」
「お、お父様……!」
アナスタシアがプルプルと拳を震わせる。
「はぁ……お前に亡きヴァージニアの淑やかさの100分の1も備わっておれば。」
「お母様は関係ないでしょ!」
「まあまあ姫様。」
プリシアがアナスタシアをなだめる。
「まあ、儂に似てしまったなら仕方ない。どうせ何を言っても聞かんのだろ。そこで……お前に旅の共をつけることにした。ヴォルフとプリシアと一緒ならまあお前が無鉄砲の世間知らずでもなんとかなるだろう。世界の広さを観てこい!そして自分がちっぽけな存在であることを思い知るがいい。もし……お前がそれでも一人で行くという本当の馬鹿なら儂はもう知らん。無理矢理に城に連れ戻し、さっさと結婚でもさせるしかないな。」
「お父様…………。」
アナスタシアが意外な父の言葉に戸惑う。
「さあ、選ぶが良い。お前はどうするのか………以上です。」
ヴォルフが一礼する。アナスタシアは父の顔を思い浮かべ俯く。
「お父様……ありがとう。」
顔を上げたアナスタシアの表情は晴れやかだった。
「ジイ!プリシア!一緒に来てくれるか?」
アナスタシアの問いに二人が答える。
「フォフォフォ……。この老いぼれでよければお供いたしますぞ。」
「はい!共に参ります!」
ヴォルフが店員にオレンジジュース二つと赤ワインを注文する。
三つのグラスが音をたて旅の始まりを祝福する。こうして、アナスタシアの旅が始まった。
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