姫様は屈しない
(あっ……。)
アナスタシアの視界が真っ白になる。
既に体力は尽きていた。
ただ気力のみで戦っていたアナスタシアだが、それも限界を迎える。
(まだ……だ!)
それでもなんとか意識を地面を踏みしめ倒れるのを防ぐ。
「終わりだ。」
エドワードが細剣を一閃する。
「がはぁ!」
横一文字に斬られ倒れるアナスタシア。
仰向けに倒れたアナスタシアの目に森の木々から零れる日の光が映る。
(もう……。)
だめだ。
意識が……。
アナスタシアの目の前に切っ先が突きつけられた。
「お前のような娘の命を奪うのは気が進まない。これで最後だ。今日の事は全て忘れろ。私の事もアルマデルの事も全て忘れると誓えば見逃す。」
「断る……私は約束……したんだ……必ず……あれを届けるって……例え……ここで奪われても……絶対……お前を探して奪い返す……。」
反抗の言葉を投げ掛けアナスタシアの意識が暗闇に呑まれていく。
エドワードが細剣をアナスタシアの胸目掛け突き下ろそうとする。
その刹那、アナスタシアの身体から黒い靄のような物が溢れ出る。
ーーゾワッ!
エドワードの背筋に凄まじい悪寒が走る。
反射的に後方に大きく退いていた。
(な、なんだっ!?)
目を見開きアナスタシアを見つめるエドワード。
その時、背後で声が聴こえた。
「珍しい気配を感じて来てみれば……これはどういう状況だ?」
(!?)
エドワードが振り向くと一人の女性が立っていた。
(なんだ?この女は……修道女?)
長い黄金の髪を風に揺らしながら佇んでいる女。
修道衣に身を包んでいるが、異様なのはその相貌を黒い布を巻き隠している事だ。
「……何者だ?」
エドワードが尋ねる。
「見ての通りの歯牙無い尼僧さ。」
飄々と答える女を警戒しつつアナスタシアに目を向けると、黒い靄は消失していた。
(なんだったのだ今のは!?そしてこの女は……。)
立て続けに予想外の出来事に見舞われ混乱するエドワードだが、すぐに冷静さを取り戻す。
「ただの修道女だというのであれば、すぐに立ち去るがいい。今見たことは全て忘れてな。」
「厄介事はご免被りたいが……。」
尼僧がエドワードのさらに向こうにいるアナスタシアへ顔を向ける。
「そこのお嬢さんを見殺しにするのは気が引けるな。」
(見えているのか……?いや、違う……。)
エドワードが倒れているアナスタシアを一瞥する。
「これは我らの問題だ。首を突っ込むと只では済まなくなるぞ……!?」
エドワードが一瞬尼僧から視線を外した一瞬に尼僧の姿が消えていた。