姫様、猛攻
「ナーシャ……さん……すみません……でした……。」
途切れ途切れに掠れた声で言葉を発するオッグス。
アナスタシアはオッグスの口元に耳を近付けなんとか聞き取る。
「すみません……すみません……。」
ひたすら謝るオッグス。
「なにを言ってるんです!オッグスさんが謝ることなんか!」
オッグスは血の気の無い虚ろな表情で口だけを動かす。
「私は……最初は……貴女達を……囮に……捨て駒に……しようと……。」
「…………わかってました。」
アナスタシアが静かに言う。
「オッグスさんが私達を盾にしてでも成し遂げなければならない事があるんだって。私達は全部承知の上で引き受けたんです。」
「そ……そんな……。」
「だから、気に病まないで下さい。」
「わ、私は……剣士……失格……だ。」
アナスタシアが首を横に振る。
「オッグスさんは自分の成すべき事を成そうとしただけです。」
「すみません……すみません……。そ、それでも……。私……の……ごほっ!」
オッグスが血を吐く。
「オッグスさん!」
「どうか……私の代わりに……。こ、これを……王都にいる……ハサン=サイードに……。」
かろうじて聴こえる程の声でそう言うと、オッグスは息絶えた。
「オッグスさん……。」
アナスタシアはそっとオッグスの瞼を閉じさせる。
「終わったか?」
「ああ……。」
エドワードの問いに背を向けて答えるアナスタシア。
「ずいぶん優しいじゃないか?」
「同じ剣士と認めた者の最期を邪魔する程無粋ではない。」
「そうか。」
アナスタシアは立ち上がりエドワードと対峙する。
「その傷でまだ戦うつもりか。たいしたものだ。」
「お前こそ、ずいぶん疲れてるじゃないか。」
「ふっ……そうだな。」
二人は剣を構え合う。
「はぁぁ!!」
「ぬっ!」
アナスタシアの斬り込みを細剣で捌くエドワード。
「たぁ!」
エドワードの反撃を許さずアナスタシアはひたすら剣を振るう。
(絞り出せっ!力をっ!)
もはや剣術とはいえぬような剣裁きでアナスタシアはエドワードに斬りかかる。
ただ無心に敵に向かい剣を振るう。
しかし、それ故にエドワードは攻めあぐねていた。
(なんなのだ、この娘は?)
何故ここまで勝てぬとわかっている相手に向かってくる?
ただ雇われただけではないのか?
アナスタシアの闘志の源泉がわからず自問するエドワード。
しかし、アナスタシアの猛攻も勢いが陰り始める。
終わりの時は近付いていた。