姫様、追い付く
エドワードはひたすら森の中を進む。
(奴は……奴はどこだ……。)
すると、前方に断崖が低くなっている場所が見えた。
(あれはっ!)
どうやらあの先から下り坂になっており、かなりの高低差があるようだ。
エドワードは傾斜していると思われる場所まで走る。
「おぉ……。」
エドワードは目を見張る。
傾斜の下には川が流れていた。
大渓谷から別れ森の中に支流が流れていたのである。
エドワードは傾斜を下っていく。
(地図にはこのような川はなかったが……。)
公には知られていない川なのだろう。
確かにわざわざこんな森深くまで来る人間などめったにいないだろう。
大渓谷と支流との分岐点は僅かな浅瀬になっていた。
流れも比較的緩やかだ。
(もしかしたら……。)
エドワードは迷わず浅瀬へ向かう。
そこには、ずぶ濡れのオッグスが倒れていた。
エドワードは安堵の溜め息をついた。
これで漸く任務を遂行できる。
イレギュラーだらけの任務であったが、これでようやく……。
エドワードがオッグスの元に向かおうと一歩踏み出す。
「待てっ!」
凛とした声が響いた。
「ーー!?」
エドワードが硬直する。
(まさか……。)
油断……違う。
オッグスを追うことに集中するあまり自分が追われる可能性を失念していた。
いや、最初から考えすらしていなかった。
何故なら、追跡不能な程に傷を負わせたはずだから。
「……。」
エドワードが固まっていた僅かな隙に、アナスタシアはオッグスに駆け寄る。
脚についた血の跡が痛々しい。
しかし、走れるくらいには回復しているようだ。
(侮ったか……。)
エドワードは自戒する。
「オッグスさんっ!オッグスさんっ!」
アナスタシアはオッグスを揺さぶりながら名を呼ぶ。
「無駄だ。致命傷を負わせたうえに崖から堕ちて流されてきたのだ。生きているはずはない。」
エドワードの言葉を無視しアナスタシアはオッグスを呼び続ける。
エドワードが腰の細剣を抜き、一歩踏み出す。
「…………ナ……ナー……シャ……さん……。」
「オッグスさんっ!?」
(馬鹿なっ!)
驚愕するエドワード。
「ナ……シャ……さん……。」
「オッグスさん!」
オッグスは生きていた。
エドワードは信じられないものを見るようにその光景を見つめていた。