姫様、森を進む
森の中を渓谷に沿って歩くアナスタシア。
崖下から聴こえる流水の音に紛れてしまわないように周囲の気配に気を配りながら進む。
「あれは……。」
前方に何か落ちている。
遠目のためはっきりわからないがあきらかに自然の物ではない。
少し歩を速め近付いてみる。
「剣……。」
地面に剣が刺さっていた。
(まさか……オッグスさんの?)
見たところ錆びている箇所はない。ここに刺さってからそれ程時間は経過していないのだろう。
アナスタシアはオッグスの提げていた剣を思い出そうとするが無理だった。
改めて周囲を見てみると、辺りの木の幹に切り傷がついている。
不自然な長さに切られた草。
踏み荒らされた地面。
(間違いない……ここで戦闘があったんだ。)
それがオッグスとエドワードだとしたら、追い付かれたということだ。
オッグスには悪いが、とてもエドワードに勝てるとは思えなかった。
(でも……だとしたらオッグスさんはどこへ?)
周りにオッグスの遺体はない。
逃げきれたか?
もしや退けたのか?
だとしたら何故剣がここに?
「くっ……わからない。」
アナスタシアは頭を振る。
(追うしかない……か。)
アナスタシアはオッグスがなんとか逃げきれたと仮定して引き続き追うことにした。
※※※※※
(なんということだ……。失態だな。)
エドワードは歩きながら拳を握る。
(どうする?一旦戻って対策を考えるか?)
手元に魔道具が無い以上、アルマデルの位置を追跡できない。
(あの傷で崖下に落ちたのだ。生きてはいないだろう。だとすれば、流されていくだけだ。このまま渓谷沿いを進めばあの男を見つけられるかもしれない。)
エドワードは崖下を注視しながら渓谷沿いをひたすら進む。
(なんとしても……持ち帰らねば。)
エドワードは崖下の様子を気にするあまり、周囲への警戒を怠っていた。