姫様、再び挑む
「奴ですっ!あぁ!奴が来たっ!」
オッグスが絶望に顔を歪める。
(そんな……みんなは……。)
アナスタシアも一瞬思考が停止してしまう。しかし、頭を振りなんとか気持ちを奮い立たせる。
(大丈夫、後で会おうって約束したんだ!絶対に生きてる!)
「オッグスさん!走りましょう!」
「は、はい!」
二人は国境に続く路から逸れてオルマンの森へ向かう。
(森へ入れば馬では追えない。振り切れるチャンスはある。)
振り向くと馬も路から外れこちらに向かって来る。
(向こうもこっちに気付いてる。)
アナスタシアは先にオッグスを走らせ自分は後ろを走る。
「はぁはぁはぁ……ナ、ナーシャさん!」
「このまま森に向かって!」
「わ、わかりました。」
後方からはどんどん馬の蹄の音が近づいてくる。あと少し、あと少しと前だけを見ながら走るオッグス。とうとう森の入り口まで来たところでアナスタシアに呼び掛けられた。
「このまま森へ逃げて下さい!あいつは私が!」
「し、しかし!」
貴女では太刀打ちできないと言う言葉を飲み込む。
「大丈夫!行って下さい!」
「わ、わかりました!」
アナスタシアがクルリと反転し追跡者と対峙する。オッグスはその姿を目に止めながら森へと入っていった。
(来るなら来い!)
アナスタシアが剣を構える。馬上のエドワードは手綱を引き馬を止まらせる。馬は大きく前足を上げて嘶くとその場に止まった。エドワードは馬の首をポンポンと叩き降り立つ。
「みんなは……どうした?」
アナスタシアは声が震えそうになるのを堪えながら問う。恐怖なのか怒りなのか、あるいはその両方か。アナスタシアはエドワードを睨みながら返答を待つ。
「さてな。邪魔する者は振り払うのみだ。」
アナスタシアが目を見開く。怒りで焼ききれそうな意識を繋ぎ止め、なんとか思考する。
(さてなって事は……生死は知らないって事なんじゃぁ。もしそうなら……。)
勿論、エドワードがただ言葉を濁しただけかもしれない。あるいは精神的に嬲るつもりか。しかし、アナスタシアは敢えてその可能性を排除し、一条の光にすがる。
「あくまで邪魔立てするか。」
互いに剣を構え睨み会うアナスタシアとエドワード。
先に仕掛けたのはアナスタシアだった。