姫様、仕掛ける
(どうする……!)
アナスタシアはヴォルフを見る。額に汗を浮かべたヴォルフが唸る。
「君たちは命をかける理由はないだろう?」
エドワードが諭すように言う。
「目的のものさえ渡してくれれば、命は保証……。」
「ざっけんなっ!」
「なっ!?」
グレンが歯を食い縛りながら跳ね起きると同時にエドワードの剣を蹴り飛ばした。完全に無力化したと思っていたエドワードは目を見開くが即座に細剣の方に跳んだ。
「くそっ、痛てぇじゃねーか。」
グレンの四肢から血が吹き出す。血を流しすぎたせいか顔色が真っ青だ。
「グレンさんっ!」
すかさずプリシアがかけより即座に魔術による治癒を開始する。
「やられたね。まさかその傷で動けるとは。」
「なめんなよ。人質にされてたまるかよ。」
「プライドを傷つけてしまったか。薮蛇だったな。」
治療を受けながら悪態をつくグレン。その様子を見ながらアナスタシアがヴォルフに言う。
「あの傷じゃあ治癒に時間がかかる。次は私達がいこう。」
「……はい。」
ヴォルフがやや躊躇いながら頷く。
(あの男……今の姫様では太刀打ちできん。魔術で動きを軽くしてもまるで差が埋まらぬ。)
「ジイ、援護を……。」
「いや、儂も出ます。」
「え?」
「接近戦と後方支援を分けてもグレン達の二の舞。儂も前に出ます。」
「でもっ!」
「姫様、お任せけだされ。」
ヴォルフの表情を見てアナスタシアが唾を飲んだ。
「わかった。やろう。」
「御意。」
するとエドワードが声をかけてきた。
「作戦は決まりましたか?」
「なんじゃ、待っていてくれたのか?余裕じゃな。」
「いえ、ただあなた達に少し興味が出てきたんです。」
「あまり上から見ていると足元を救われるぞ。」
「失敬。では気を引き締めていきます。」
エドワードが構えると同時に二人が左右から仕掛ける。
(ほう、二人とも来るか……。)
アナスタシアは剣で、ヴォルフは杖でエドワードを挟撃する。
(なんて剣捌きだ、撃ち込めない!)
アナスタシアは手を休めず斬りかかるが悉く凌がれてしまう。
「二人とも前に……!」
「爺さん、どうするつもりだ。」
グレンとプリシアもアナスタシア達の行動に面食らう。
(この老人……身のこなしはかなりのものだ。美しすらある。しかも娘の攻撃に的確に合わせてくる……やりずらいですね。それに加え……。)
エドワードの視界が赤くなる。
「ぬっ!」
轟っとエドワードの目の前を火の玉が通りすぎた。
(タメ無しでの魔術!的確に娘を巻き込まない軌道ではなってくる!)
スパッ!
アナスタシアの斬撃がエドワードの肩をかすった。