姫様、敵襲
翌日も朝から馬車は国境を目指し走った。
「このまま何もなく着けるといいですね。」
「そうだな。」
プリシアの言葉にグレンが答えた。あと半日もあれば国境に着くだろう。オッグスによるとそこで馬車を降りて別の移動手段に変えるらしい。すると、今まで勢い良く走っていた馬車が減速し始めた。
「ん?なんだ?」
「なんでしょう?」
先頭の馬車に乗るグレンとプリシアが窓から顔を出す。
「どうかしたのか?」
グレンが御者に尋ねる。
「あ、はい。道の真ん中に人が……。」
グレンが前方を見ると確かに道のど真ん中に人が立っている。黒いローブを着て真っ直ぐこちらを見ている。
「おーい!退いてくれ!!」
御者が大声で呼び掛けるが道を塞ぐ人物は動かない。グレンは嫌な予感がして、御者に言う。
「止まるな。道を外れてそのまま走れ。」
「わ、わかりました!」
御者が鞭を振るうと馬車は右に大きく反れる。後続の二台もそれに従う。
(さて、どうする……。)
グレンが道に立つ人物に目を向けると、姿がない。
「なに!?」
途端、馬車が急停止する。
「きゃっ!」
「ちっ!」
グレンは馬車の外に飛び出す。なんと道を塞いでいた人物、フードが捲れ顔が露になった男が御者から手綱を奪い馬を静止させていた。御者は椅子の上でぐったりしている。
(こいつかっ!)
男と目が合ったグレンが叫ぶ。
「敵襲だっ!!」
その声を聞き、アナスタシア達が馬車から飛び出して来る。
「ほう……新たに護衛をつけたか。無駄なことを。」
男が地面に降り立ちアナスタシア達を見据える。四人はオッグスと御者たちが隠れる馬車を庇うように男と対峙する。
「アルマデルさえ渡してくれれば手荒な真似はしないと約束しよう。」
髭をたくわえた男は良く響く声で言った。
(アルマデル……?運んでいるものの名前か?)
アナスタシアは剣を構えながら男に尋ねる。
「何者だお前はっ!」
「私はエドワード=ハウゼン。アルマデルは回収させてもらう。」
「アルマデル?」
「君たちが運んでいる物だ。大人しく渡してさえくれれば手荒な真似はしない。無益な戦いは私も望みはしない。」
予想外の紳士的な言葉にアナスタシア達が戸惑う。
「その割には前の護衛達は簡単に片付けたんだな。」
グレンがエドワードに向かって言う。
「彼らは聞く耳を持たなかったのでね。不本意ながら始末したのだ。君たちもそうなりたくはないだろ?」
4対1の状況でもエドワードは余裕の態度を崩さない。
「立場上、渡すわけにはいかない。」
アナスタシアの言葉にエドワードは溜め息をつく。
「ならば、仕方ない。少し眠ってもらおう。」
男が黒いローブを脱ぎ捨てる。背中に赤い紋様の描かれたローブが風に舞い地に落ちた。と同時にエドワードが馬車に向けて突進した。