姫様、順調な旅路
国境までは馬車で3日程かかる。通常よりもかなり跳ばして走った為、夜には半分程の距離まで来ていた。
アナスタシア達は道から外れた所にあった樹の根元を夜営地とした。少し離れた場所で御者達がオッグスに文句を言っていた。曰くこれ以上は馬に無理をさせられないと言うことらしい。
「だいぶ進んだね。明日には国境に着きそうだ。」
「ああ、襲撃もなかったしな。」
焚き火を囲み話す四人。そこにオッグス達がやってくる。
「すみません、皆さんにもご無理を。」
「いえ、大丈夫です。早く着く分には助かります。」
「そうですね。びゅーんって早かったです。」
プリシアがオッグスや御者たちに食後の紅茶を出してやる。
「これはかたじけない。」
一同は焚き火を囲みながら今晩の見張りについてや明日の事を話し合う。
「では、今晩はこの順で見張るとしよう。」
ヴォルフの提案によりオッグス、グレン、アナスタシアとプリシア、ヴォルフの順に朝まで見張りを立てることになった。
※※※※※
「よぉ、交代だぜ。」
焚き火の前に座り、周囲に目を光らせていたオッグスの前にグレンがやって来た。
「ん?もうそんな時間ですか。では宜しく頼みます。」
「ああ。あんたもちゃんと休めよ。そんなに気を張り詰めっぱなしじゃ、いざ敵が来たときに動けないぜ。」
「はは、これは手厳しい。しかしその通りですね。」
「そんなにその襲撃者ってのは手強いのか?」
「…………。」
オッグスの表情が曇る。
「話すと俺達が逃げちまうかもって?」
「ぐっ……。」
「すまん、つまらねーこと聞いたな。」
「……いえ、私こそすみませんでした。」
オッグスがグレンを見据える。
「強いです。すくなくとも私では手も足もでません。共に任務を遂行していた仲間も私を逃がす為に……。」
「成る程な。どんな奴なんだ?」
「一度襲撃してきたのは、細剣を使う男でした。しかし、同じ者が来るとは限らないので……。」
「敵も複数ってことか。」
「はい。」
「そっか。わかった。話してくれてありがとな。」
「え?」
「少しは俺らを信頼してくれたんだろ?」
グレンがニカッと笑う。
「え、あ、え……。」
言葉に詰まるオッグス。
「じゃ、後は俺に任せてあんたは休みなよ。」
片手を挙げるグレンに一礼しオッグスは馬車へと向かった。