姫様、任務開始
翌朝、買い物を済ませからオッグスの泊まっていた宿にアナスタシア達は向かった。宿が見えてくると既にオッグスは宿の前におり、馬車も3台待機していた。オッグスはアナスタシア達を見つけると心底ホッとした顔をした。
「逃げなくて良かったってところかな。」
「ですな。周囲への警戒心もかなりのもの。」
「こりゃ、やっぱキナ臭い仕事だな。」
「き、緊張しますね……。」
オッグスはさっそく馬車に乗り込むように促した。
「皆さん、申し訳ないがすぐに出発します。」
「ふむ。儂らはどの馬車かの?」
「私とどなたかお一人が真ん中の馬車。残りの方は前後の馬車にお願いします。」
「念入りだな。わかった俺が先頭に乗ろう。」
グレンが申し出た。
「ならば儂が殿を務めるとしようかの。」
「なら、私がオッグスさんと一緒に。」
「わ、私はどうしましょう?」
プリシアが不安そうに聞く。
「ならば先頭がよかろう。有事の際はグレンと連携して対処してくれ。」
「わ、わかりました!頑張ります!」
こうして各馬車に乗り込むと御者が鞭を振るい出発した。
※※※※※
走行中の馬車内でアナスタシアはオッグスと向かい合って座っていた。オッグスは鍵つきの箱を膝に乗せている。恐らくこれが運んでいる物なのだろう。
「オッグスさんはどこかの国の兵士なんですか?」
それとなく探りを入れるアナスタシア。
「いえ、兵士ではありません。剣術は学びましたが一介の剣士でしかありません。」
成る程、確かに佇まいや所作は剣士のそれである。アナスタシアは同じ剣士として興味が湧いた。
「そう言えば、まだ名乗ってませんでしたね。私はアナス……ナーシャといいます。」
「ナーシャさんですか。ハハ、確かに皆さんの名前を聞いていなかった。私としたことがお恥ずかしい。」
オッグスは頭を掻く。それ程余裕がなかったのであろう。アナスタシアはオッグスという男の本質を垣間見た気がした。きっと根が真面目なのだろう。笑った顔は人のいい中年男性だ。
「ナーシャさんも剣士なのですか?」
オッグスが尋ねる。
「うーん。まだまだ若輩です。正式に学んだわけでもありませんし。」
「そうなのですか?では我流なのですね。」
「我流……まあそうなのかな?」
「貴方はまだ若い。剣の道も幾通りもあります。自らの道を進むも良し。良き師に巡り合うこともあるやもしれませんし。」
「師……ですか?」
「いや、これは失礼。説教臭くてすみません。」
オッグスはまた頭を掻く。
(師か…………。)
その言葉が妙に頭に残った。