姫様、頼まれる
声をかけてきたのは旅装束の男だった。30歳くらいだろうか、グレン程ではないが体躯もしっかりしており腰から剣を提げている。
「貴方は?」
アナスタシアが尋ねると男は名を名乗った。
「私はオッグスという者です。すみません、貴女達の会話が聴こえてしまいまして。」
「ふむ。いかにも儂らはエスナール王国に行こうといておるが。」
オッグスは四人をそれぞれ見渡し言った。
「失礼ながらかなり腕の立つ方々とお見受けしました。」
「へへ。まあかなり強ぇぜ。」
グレンが酒を呷り冗談めかして言う。
「実は……皆さんにお願いしたい事が。」
※※※※※
「私は今、ある物を運んでいるのですが……それをエスナール王国の王都まで届ける為の護衛をお願いしたいのです。」
隣から椅子を持って来て同席したオッグスが頼み事とやらを話す。
「護衛?」
アナスタシアの言葉に頷くオッグス。
「護衛という事は……襲ってくる輩がいると?」
ヴォルフが静かに尋ねる。
「……はい。確実ではありませんが。襲われなければ勿論それに越したことはありません。」
「なるほど、用心棒ってやつか。で、運んでる物ってのはなんなんだ?」
「……すみません。それは教える事はできないのです。ただ、とても大切なもので命に代えても届けなくてはならないのです。」
「ど、どうしますか?」
プリシアが困ったようにアナスタシアを見る。オッグスもすがるような視線を向けた。
「うーん。護衛か~。」
「護衛について貰えるなら国境まで馬車を出しますし、エスナール領内でも乗り物を手配します。兎に角早く届ける必要がありますので。勿論、報酬も!」
オッグスは腰に吊るしていた皮袋をテーブルの上にドンッと置いた。紐をほどき中を見せるオッグス。中には金貨が詰まっていた。
「ひゅ~♪」
グレンが口笛を吹く。
「無事に届けたらさらに報酬をお渡しします。ですから……どうかお願いします!」
テーブルにぶつけるかと思うくらいの勢いで頭を下げるオッグス。ヴォルフ達はアナスタシアに判断を委ねる。
「………わかりました。お受けします。」
オッグスが頭を上げる。
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!では、明日の朝にでも出発してもよろしいですか?」
「ええ。では私達もそちらに出発を合わせます。」
話が終わるとオッグスは自分の泊まっている宿と出発時間を伝えて一足先に店を出ていった。
「ふぅ。また胡散臭い事に巻き込まれたな。」
「ふむ。そうさのぅ。」
「護衛が必要なんて何を運んでるんでしょうか?」
「うーん。悪事の片棒って感じじゃなさそうだったから受けてみたけど、確かに怪しいよね。」
「それにしても……命に代えても届ける必要のある物と言っておりましたが……。」
「ああ、今までは護衛をつけてなかったのか。」
「あるいは、つけていた護衛が全滅したか……か。」
アナスタシアの言葉に空気がはりつめた。