姫様の提案
アナスタシアの部屋に皆が集まった。
「そろそろ来るかな?」
「そうですな。もう夕刻も過ぎる時間ですな。」
アナスタシアとヴォルフは向かい合って座りながらプリシアの淹れた紅茶を楽しんでいる。
「ふぅ。ホントに来るかねぇ。」
壁に背を預け腕を組んで立っているグレンが言う。
「大丈夫ですよ。ゆっくり待ちましょう。」
プリシアが笑顔で答えた。それからしばらくして、部屋のドアがノックされた。
「あっ!はいっ!」
プリシアがドアを開けてやると、宿のボーイが立っていた。
「失礼いたします。実は今、お客様方の知り合いだとおっしゃっる方がいらっしゃってるのですが……その……身なりが……アレでして……まだ子供ですし……。」
言いにくそうに説明するボーイ。
「ありがとう、その子は本当に知り合いなんだ。部屋まで通してくれるかな?」
「か、かしこまりました。」
一礼して去ろうとするボーイにアナスタシアがチップを渡してやる。程なくして、ドアがガチャっと開けられた。
「来てやったぞ……。」
シャントが目線を反らしながら部屋に入ってくる。
「あのねぇ……ノックくらいしたらどう?」
「ふんっ。そいつぁ悪かったな。なんせ育ちが悪いからな。」
「まあまあ。お二人とも。それよりシャントさん、お茶でもいかがですか?」
プリシアがシャントの為に新たに紅茶を淹れてやる。
「さあ、お菓子もありますよ。」
「そうじゃな。まあ話の前に一服すると良い。」
ヴォルフが席を開けてやり、自分はベッドに座る。
「う、うん……。」
シャントが空いた椅子に座るとプリシアが紅茶を差し出す。シャントはそれを一口啜ると、
「あ……美味しい。」
ポソリと呟いた。しかしすぐに顔を赤らめてしまう。
「そうですか。お口に合って良かったです。」
シャントは照れ隠しに紅茶を一気に飲み干し、目の前の菓子を口に放り込んだ。
「ふぉれへはなひっへなんなほ。」
「ふふふ、あらあら。」
「はぁ、食べ終わってから喋りなよ。」
「んぐっ!それで話ってなんだよ?」
シャントが呼ばれた理由を尋ねる。
「ああ、その前に君はこれからどうするか決めたのか
?」
「これから?」
「ああ、仕事や住む場所、あとは孤児院の事かな。」
「そ、そんなのお前に関係ないだろ!」
「確かにそうだね。だから私はシスター・リタや孤児院の子たちの為に話すよ。」
「は?それってどういう……。」
「私達はあの人達と関係あるからね。ねっ!グレン?」
グレンが急に話を振られ少し戸惑いながら答える。
「お、おう。まあな。」
アナスタシアが満足気に頷く。
「で、君はこれからどうするんだ?仕事は?稼ぎがないと住んでる場所から追い出されるんじゃないの?孤児院にお金を送らないといけないんでしょ?」
アナスタシアが矢継ぎ早に問う。珍しいアナスタシアの態度にプリシアとグレンは顔を見合せ首を傾げた。
「うっ……だから……それは……。」
言葉に詰まるシャントにアナスタシアが言う。
「そこで提案なんだけど……。」
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