姫様の脱出
深夜、月灯りの中、城の外壁をスルスルとシーツを結んで作ったお手製ロープを蔦って降りてくる影が薄っすらと見える。
「よっ……よっ……よっと……。」
器用に外壁を蹴りながら中庭を目指すアナスタシアである。
「よっと!到着!」
今しがた自分が降りてきた部屋を見上げると窓から垂らされたシーツが風に揺られていた。
アナスタシアは事前に場所を確認しておいた地下水路への入り口へと急ぐ。
幸い見廻りの兵士には出くわさずにやってこれた。
水路への入り口は大きな丸い石できた蓋がしてある。
「確かこの辺に……。」
アナスタシアが近くの茂みを漁り鉄製の火掻き棒を取り出す。
昼間に部屋にあった物を隠しておいたのだ。
同じく昼間に目をつけておいた大きめの石を蓋の隣に置き、火掻き棒を蓋の隙間に差し込む。
「やっ!やっ!」
数回、隙間に目掛けて火掻き棒を突き立てると上手いこと隙間に嵌まった。
あとは、テコを使い石の蓋を持ち上げて横にずらす。
入り口を覗くと下まで梯子が掛かっているようだ。
アナスタシアは先ほど腰に挟んだ薪を持ち、
「火の玉。」
と呟き小さな火球で薪に火を付ける。
松明を片手に梯子を降りていくと身長の五倍くらいの高さで下に着いた。
方位磁石を取り出して城の近くを流れる川がある南を目指す。
アイソル王国は治水工事に関しては先進的なので城や城下町の地下を縦横無尽に水路が走っている。
夜明けまでには城下町の外にはでないといけないのでやや早足に歩を進める。
時折りピチャンッと水滴が落ちる音とアナスタシアの息遣いが響く中、方位磁石を頼りに南へ南へと進んでいく。
松明の灯りのみで暗闇の中を歩き続けていると、流石のアナスタシアも不安になってくる。
(もしかして道を間違えたんじゃ……。)
そんな思いが沸き上がる度に立ち止まり首を振って不安を消し去ろうとする。
(くそっ!情けないぞアナスタシア!旅はまだ始まってもいないんだぞ!)
自分を叱咤しながら着実に南へ進んでいくと、気のせいか風が頬を撫でた気がした。
さらに進んでいくとゴーッという低い音が遠くから聞こえる。
(やっぱりだ!外が近いぞ!)
ゴールが見えてからのアナスタシアは早かった。
確かな足取りでどんどん進んでいくと、松明以外の灯りで水路内が照らされているのに気づく。
目を凝らすと三本ばかり橋を渡った先から光が差し込んでいた。
ようやく出れるかと思うとアナスタシアの足取りも軽くなり遂に地下水路を抜けた川沿いに出た。
水路から川に流れ込む出口には金網が張られており、押しても引いても開く気配がなかった。
「最後の関門か……。」
しばし悩んだ末にアナスタシアが出した結論は、強行突破だった。
金網目掛けて蹴りを放つ。
錆び付き脆くなっていた金網はバキッと外れ手で押すと人一人が通れる隙間ができた。
外に出たらまた元に戻しておき川沿いに降りると東から日が登り始めるのが見えた。
「さて……。」
アナスタシアは畳んであった地図を広げる。
(あそこに城が見えて、ここを川が流れてるってことは今この辺か。)
地図を見ると現在地から北西に歩いていくと宿場町がある。アナスタシアが指で距離を計る。
「よし、行くか。」
北西へ歩き始めるアナスタシア。
城はどんどん遠ざかっていった。
お読み頂き誠にありがとうございます。
宜しければブクマやコメントを頂けると幸いです。