姫様、戻る
アナスタシア達はシャントと共にガットとトートの遺体を外に運び出した。二人を地に寝かせると辺りで調達してきた木材を二人の周りに組み上げる。ヴォルフが魔術で火をつけると次第に燃え上がっていく。暗闇を立ち上る炎が明るく照らす。
「我らを見護りし聖女ステラよ。役目を終えし魂に安息を与えたまえ。」
五人は炎が燃え尽きるまで祈りを捧げた。シャントが跡に残った灰を一掴みハンカチに包んだ。
「ガットと私はあの孤児院で育ったんだ。だからあそこの庭に埋めてやる。賑やかだしトートも一緒にいるから寂しくないよね。」
やがて、うっすらと朝日が顔を出し始めた。
「悪いけど、二人を埋めてやるまで私を捕まえるのは待ってくれないかな?」
シャントがアナスタシアに言った。アナスタシアはヴォルフ達を振り向く。そして、コクンと頷いた。
「いや、君を捕まえる気はない。」
「え?」
「確かに君達は街を騒がせた怪盗団だった。でももう十分過ぎる罰は受けたと思う。」
「でも……私だけ……そんなのダメだよ!」
「どうしても捕まって罪を償いたいって言うなら無理に止めはしない。ただ、君にはまだやらないといけないことがあるだろ?」
「…………孤児院。」
「うん。今度は正しく稼いだお金で護ってあげるんだ。」
「正しく?」
「そうやってあの孤児院を護っていれば、いつか聖女様が許してくれるさ。」
朝日に照らされたアナスタシアの微笑みがシャントには本当に聖女に見えた。
「うん。わかった……やってみるよ。でも私にできる仕事なんてあるかな……。」
不安そうなシャントにアナスタシアが言った。
「そのことなんだけど、二人を孤児院に連れていってやったら私達の宿に来てくれないか?」
「え?」
「そうだな……こちらもやることがあるし、夕方くらいにしよう。」
「う、うん。でもなんで?」
「まあ、来てから話すよ。」
そう言うとアナスタシアはシャントに背を向け仲間達の元へと向かう。シャントが四人を見つめていると、プリシアがペコリと頭を下げた。それを合図に四人は市街の方へと去っていった。シャントは地下室への階段を見た。様々な思いが詰まった場所だ。今でもあの階段を降りれば、ガットがいて、ダイアンがいて、トートがいて、ヘスがいるような気がする。
「………。」
また涙が溢れてくる。シャントは手で涙を拭うと孤児院へ向かって走り出した。