Interlude
宿の一室。ネーブルがソファに座りワインをグラスに注いでいる。
「よろしかったのですか?」
御者がネーブルに問う。
「ん?ああ、まあ仕方ないさ。」
ネーブルがそっけなく答えワインを呷る。
「スライとハンが戻ったらこの街を出る準備をせんとな。」
「はっ。」
おそらくあの連中はアジトの事を官憲に報告するだろう。スライとハンはガキどもを皆殺しにしただろうか?
ネーブルが考えていると、部屋のドアがノックされた。
御者がドアを開けると、ハンとスライが連れだって戻ってきた。
「ご苦労だったな。」
ネーブルが二人を労う言葉をかける。
「どうも。」
ハンがそう言いながらソファに腰をおろす。
「なんだ、ずいぶん汚れているじゃないか。」
「ええ、まあ。さっさと風呂入って寝たいですね。」
「そうだな、私も些か疲れた。ただ朝にはこの街を去るんでな。」
「ほぅ。あそこで何があったのですか?」
スライもソファに座りネーブルに問う。
「ああ。実はな……。」
ネーブルが二人にアジトであったことを話す。
「なるほど。そういうことですか。それが賢明ですね。彼らのうち一人を取り逃がしてしまいましたから。」
「へ~。優しいね~。」
ハンが唇の端を上げる。
「そうか。なら決まりだな。あいつ等から足がつく事はないだろうが、万が一にも面倒事はご免だ。」
「じゃあ俺はひとっ風呂浴びて部屋で休ませてもらいます。」
「ああ、寝坊するなよ。」
ハンが片手を振りながら部屋を出て行く。
「ほら。」
ネーブルがスライに空のグラスを渡してやりワインを注ぐ。
「頂きます。」
スライがグラスに口をつける。
「何事も好事魔多しだな。色んなトラブルがある……。」
ネーブルが誰にともなく言う。
「私はね、鼻が効くんだよ。欲をかくべき時と場合にね。」
「はい。」
スライが相づちを打つ。
「あの二人からは何となく危険な匂いがしたんだよ。目の前のお宝を捨てでも安全をとるべきだってね。」
「そうですか。」
「私は臆病者なんだよ。」
ネーブルが自嘲しながら言う。
「さて、暫くは大人しくしておくか。私はバカンスに出かけるつもりなんだが……君達もくるかね?」
こうして、ネーブル達は朝日が昇る頃にはフェールズを去った。