姫様、追い付く
「くっ!こっちかっ!」
地面に残る靴跡を頼りに何度目かの角を曲がるアナスタシア。
「あれはっ!?」
前方に誰か倒れている。アナスタシアが走りよると、
「惨いな……。」
恐らく地下から逃げ出してきた一人だろう。背中を刺され両腕は斬り落とされ横に転がっていりいた。どうやら近くには他にはいないみたいだ。抱えていたシャントは上手く逃げおおせたのだろうか。追跡を急ぎたいが……。
(このままは……可哀想か。)
アナスタシアは亡骸を路の端まで動かし寝かせた。斬られた両手腕を身体の上に乗せてやり、持っていたハンカチを顔に被せてやる。アナスタシアは祈りを捧げるとキッと前方を向き走り出した。
(追手は殺したらその場に放置している。シャントの死体がないのはまだ逃げてるってことか……。)
自分でも希望的観測なのはわかってはいるが、アナスタシアはシャントを死なせたくはなかった。その時、どこからか犬が激しく鳴く声が聴こえた。
「あっちかっ!?」
アナスタシアは鳴き声が聴こえた方角を目指し加速する。とうとう人の気配を感じるようになったアナスタシアは走りながら剣に手をかけた。前方の突き当たりを右に曲がった所で、ついに追い付いた。
「!?」
地に倒れているシャントはアナスタシアを見て目を見開く。
「ほぅ。」
今まさにシャントを仕留めようとしていた男も微かに驚いた。
「たぁぁ!!」
アナスタシアはそのままの勢いで剣の男、スライに斬りかかる。
「はぁっ!てぁっ!」
アナスタシアがスライの周囲を動き回り四方から斬撃を繰り出す。しかしスライは片手で剣を振るい打ち払う。
「よく動くものだ。」
十数回の刃がぶつかる音の後に、ようやく互いに距離をとり向かい合った。アナスタシアはシャントを背に庇いながら声をかける。
「動けるかっ?」
「お前っ!なんで……?」
「動けるのか!動けないのか!どっちだ?」
振り返らずに問うアナスタシア。
「うっ……脚を斬られた……走るのは無理……。」
叱られた子供のように答えるシャント。
「わかった。なら歩いて地下室のある所に戻るんだ。」
「えっ……でもあそこは……。」
「大丈夫、私の仲間がそこにいる。とにかくそこへ行け。土地勘はあるだろ?」
「う、うん。」
シャントはヨタヨタしながらなんとか立ち上がるとフラつく足取りで、スライの立つ方とは反対側に脚を引きずりながら歩き始めた。
「!?」
アナスタシアの眼前にスライが迫る。
(行かせるかっ!)
アナスタシアが剣を横に凪ぐ。スライは一歩下がりかわすと袈裟斬りに剣を振るう。
ガィィーン!
金属が激しくぶつかる音がする。
「くっ!」
アナスタシアの両手が一瞬痺れた。
(重い斬撃だ……。受け続けるのは無理か。)
「ならっ!」
アナスタシアは大きく踏み込むとスライの胴目掛けて突く。身体を反転させ受け流すと同時に横凪でカウンターを仕掛けるスライ。
「ぬっ!」
スライの斬撃は宙を斬る。アナスタシアはスライの剣線よりさらに下に身を屈ませ斬撃をかわすとカウンターのさらにカウンターとばかりに足元から上に斬り上げる。
「しゃあっ!」
「ぐぅっ!」
気合いと共に放たれたアナスタシアの斬り上げは、瞬時に右に跳んで転がったスライに惜しくもかわされた。
「なっ……。」
スライの左腕には微かだが斬り傷があった。
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