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姫勇者アナスタシア冒険譚  作者: 森林木
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姫様、走る

夜のスラムを疾走するアナスタシア。


(流石に気付かれてる……よね。)


前方を走る男とは十分に距離はとっているが、それでも足音や気配で気付かれてるだろうとアナスタシアは感じた。それでも男は振り返ることなく走る。


(逃げてる奴を捕まえるのが最優先ってことか。)


何度目かの角を曲がった時、


「なっ!?」


アナスタシアが足を止める。細い路地に、行く手を遮るように木材が倒れている。


(やられたっ!?)


恐らく前を走る男が通りすがる際に倒していったのだろう。アナスタシアは剣で斬り払いながら路地を進む。男の背は見失ったが、地面についた足跡や通り過ぎた形跡を探しながら追跡を続けた。


※※※※※


(くそっ!振り切れねぇ!)


ダイアンはシャントを小脇に抱え走る。遠くから微かに聴こえる足音。


(ちっ!これじゃあ鼠だぜっ!)


狩られる側の動物ってのはこんな気持ちなんだろうかなどと妙に冷めている自分に驚く。シャントは未だに放心しており、自分で走れる状態ではない。隠れてやり過ごすか?いや、きっと無駄だろう。先程から姿は見えないのに的確に通った路を追って来ている。


(恐らく俺の走った痕跡を辿ってるんだ。)


ならば、下手に隠れるより逃げた方がまだ助かるかもしれない。スラムを抜けて朝までやってる酒場や宿屋へ逃げ込めれば……。ダイアンは走りながらスラムからでる最短の道順を考える。


「シャントっ!しっかりしろっ!死にてーのかっ!」


聴こえているはずなのにシャントは反応を示さない。その時、背筋がゾクッとした。ダイアンが走りながら振り返ると、とうとう追跡者の姿が見える距離まで追い付かれた。腰に剣を帯びた男が迫ってくる。


(ヤバいっ!どうする!?)


ダイアンは大人を怖いと思ったことはなかった。背が高く腕力もあるダイアンはスラムのならず者達にも一目おかれていた。怪盗団として盗みをするようになってからは、いけすかない金持ち達が悔しがるのが面白かった。俺は、俺達は、大人なんかよりずっと強くて賢いんだと思っていた。だが、この状況はなんなんだ?怖い……。怖くて仕方ない。えたいのしれない大人に追われ、馬鹿にしてきた大人に助けを求めようとしている。


(くそっ!くそっ!くそっ!)


すぐ後ろまで追跡者が迫っているのがわかる。


「っ!?」


突如、両のふくらはぎがに熱いものが触れた気がした。少し遅れて痛みが走った。斬られたと理解した時には既に前に倒れていた。


「くそーっ!」


倒れる刹那、抱えていたシャントを前方に思いっきり投げた。


「逃げろっ!とにかく走って逃げろっ!」


必死に叫ぶダイアン。シャントは倒れたまま虚ろな目でダイアンを見つめている。


「ぼーっとしてんじゃねーっ!逃げろっ!」


ダイアンの悲痛な声と表情にシャントが微かに反応を示す。ダイアンを斬りつけた男はダイアンを無視しシャントの方へ向かって歩いていく。


「にっ、逃げろっ!早くっ!」


ダイアンが這いつくばりながら男の足にしがみつく。


「バカ野郎ーっ!逃げろーっ!」


夜のスラムにダイアンの叫びがこだました。


「!?」


その声を聴いてシャントが意識を取り戻した。


「ダ、ダイアンっ!?」


ようやく反応を示したシャントにダイアンが言う。


「てめぇ!モタモタすんなっ!早く逃げろっ!」

「で、でもっ!」 


涙を流しながらどうしていいかわからないシャントにダイアンが叫ぶ。


「バカ野郎!ガット達の気持ちを無駄にすんなっ!行けっ!」

「ーー!?」


ザクッ!


追っ手の剣がダイアンの背中に突き刺された。


「ダイアンっ!」

「行けー!!」


血泡を吹きながらダイアンが叫ぶ。シャントは泣きながら頷くと立ち上がり走った。


(ちっ……。やっとかよ……。)


「ぐふっ!」


背中に刺さった剣を捻られ大量の血を吐くダイアン。しかしそれでも男の足に纏わりついたままだ。流石に男も驚く。


「ぬっ……。」


(へへ……せいぜい驚きやがれ。力自慢のダイアン様から逃げら……!?)


ダイアンの両手が斬り落とされる。


(ちっ……畜生……。)


男がシャントを追うために遠ざかっていく。もう何も見えないダイアンは仲間の事を思う。


(黒猫怪盗団か……なんだよ黒猫って……笑っちまうぜ。)


ガットに誘われ仲間になった怪盗団。


(まあまあ楽しかったぜ。)


ガットもトートもヘスもシャントも……嫌いではなかった。友人、弟分、そして……。


(シャント……死ぬなよ……。)


ダイアンはゆっくり目を閉じた。








御一読頂き誠にありがとうございました。

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