姫様、追う
「あっ!誰か出てきた!」
アナスタシアが指差す先、地下室への入口から人影が跳び出してきた。
「二人……いや、三人か。あの抱えられてるやつ……。」
グレンが闇の中目を凝らす。
人影は双手に別れて路地へと走り去っていく。その後から長身の男が地上へと上がってくる。男は馬車に駆け寄ると中の人物と何かを話している。
「どうしたんでしょう?あの人達も怪盗団なんでしょうか?」
プリシアが疑問を口にする。アナスタシア達が遠目に様子を見ていると、馬車から剣を腰に帯びた男が下りてきた。地下から出てきた男と剣の男は、先程跳び出してきた人影を追うように双手に別れて走っていった。
「これって……。」
「ふむ。どうやら、一足遅かったようですな。」
「ちっ!忠告しただろうが。」
グレンが悔しそうに言う。
「ど、どうしましょう?」
プリシアがアナスタシアを見る。
「私達も追おう。私は剣の男達、グレンはもう一方を!」
「わかった。無茶すんなよ。」
「ああ、グレンもね。ジイとプリシアは地下室の方を頼む。」
「御意。」
「わかりました!」
四人は散開した。
※※※※※
「はっ!はっ!はっ!」
ヘスは後ろを振り替える余裕もなく無心で走った。自分には土地勘がある。
(裏道に入ってさえしまえば……。)
逃げ切れると自分に言い聞かせヘスは兎に角走った。撃たれた痛みは感じない。生き延びたいという強い思いが勝手に足を動かしてくれる。
(この路をまっすぐ走ればスラムを抜ける!あとは朝まで隠れていればっ!)
流石に奴らも富裕層の居住区で殺人はしないだろう。すがるような思いでスラムの外へと……。
ぽんっと肩を叩かれる。
「えっ?」
間抜けな声を漏らす。がっちりと肩を捕まれ足が止まってしまう。振り返ると、地下室でネーブルの後ろにいた男が立っていた。
「ひっぃぃ!」
声にならない悲鳴をあげるヘス。
「ぐむっ!?」
大きな掌で口を押さえられ声が出せない。恐怖に震えるヘス。そのまま路地の壁に押さえつけられる。
(死ぬっ……!?)
ヘスは涙を流しながらなんとか逃れようとハンの腕を掴む。しかし逞しい腕はびくともしない。
(あぁ……。)
絶望のあまり全身から力が抜けるヘス。足元に水溜まりができる。
「はぁ……。なんでもっと上手く逃げないかねぇ。」
ハンが呟く。
(なにを……。)
「追いついちまったじゃねぇかよ。」
残念だと言わんばかりにハンは言う。ハンがヘスの口から手を離す。腰の抜けているヘスはそのままへたりこんでしまう。
「あっ……あっ……。」
言葉にならない。ハンはしゃがみこむとヘスの首を腕で固定する。
「ぐぇっ!な、なに……。」
ハンがもう一方の手でヘスの頭を持つ。
ゴキッ!
ヘスの頭が真後ろを向いた。ハンは立ち上がるとヘスの身体を引き摺って歩く。手近にゴミの山を見つけると、その中にヘスを隠した。
「はぁ。」
手をパンパンと払いながら溜め息をつくハン。雇い主のいる地下室へ引き返すために少し歩いたところで、
「ん?」
前方に人影が現れた。
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