姫様、様子を見る
夜のスラム。アナスタシア達は四人で怪盗団のアジトに向かって歩いていた。すると後方から来た二台の馬車に追い抜かれる。
「こんな時間に珍しいね。」
「そうですね。しかも二台……。」
そんな事を話ながらグレンの案内で怪盗団のアジトへ向かう一行。やがて、遠くの方にアジトへの隠し階段がある廃墟が見えてくる。
「あれだ。彼処に地下室への階段が隠してある。」
「ねぇ、あれ……。」
アナスタシアが指差す方向。路を挟んだ廃墟の向かい側に先程の二台の馬車が止まっている。
「何であんな所に。」
皆が足を止め周囲の様子を伺う。
「ふむ。気にかかりますのぅ。こんな何も無い所で。」
ヴォルフが言うように廃墟の周辺も崩れかけの家屋や空き地しか無く、人の気配はない。
「怪盗団と関係有りかな?」
「なんとも言えませんな。しばし様子を見ますか。」
ヴォルフの提案で四人は物陰からアジトの様子を見る事にした。
※※※※※
「ガット……?」
シャントが呟く。ガットがゆっくりと前に倒れる。地に伏すガットをネーブルが見下ろす。
「なかなか良い取引先だったが……まあ仕方ない。そろそろ潮時だ。」
ネーブルが爪先でガットの頭を蹴る。
「ガット!!」
あまりの出来事に時が止まっていた怪盗団の面々がようやく事態を把握しガットに駆け寄る。
「ガット!ガット!しっかりしろ!」
シャントがガットの身体を抱えて声をかける。ガットは胸部から大量の血を流しており服の前部は既に真っ赤だった。
「ガット!ど、どうして……?」
ヘスが震えながらネーブルを見る。
「てめぇ!ゆ、許さねぇ!」
ダイアンが吠える。
「じゅ……銃!?」
トートが言うようにネーブルの右手には銃が握られていた。
「まったく……玉だってタダじゃないんだがね。ゴミ掃除にはやや勿体無いが、これまでの仕事の褒美だ。」
「ひっ……!」
恐怖でへたりこんでしまうトート。
「ガット!ガット!目を開けて!」
尚もガットにすがり付くシャントからダイアンがガットの身体を奪いとり、呼吸を確かめる。
「ダ、ダイアン……?」
シャントが目に涙を溜めダイアンを見る。
「生きてる。まだ息がある!」
「え?」
シャントがダイアンがしたのと同じようにガットの口元に耳を当てる。確かに微かだが呼吸している。
「ほぅ。生きてるのか、しぶといな。」
冷たく良い放つネーブル。
「……げ……ろ……に……ろ……にげ……ろ……。」
ガットの口元が僅かに動く。
「え……?」
シャントは何を言われたのか理解できない。
「はや……く……にげ……ろ。」
苦しげに顔を歪め、仲間に逃げろと伝えるガット。
「や……やだ……そんなの!?」
シャントがガットにすがり付く。
「はっはっはっ!流石はリーダーだ。君達、リーダーが逃げろと言っているよ。」
ネーブルがガットの言葉を嘲笑う。
「しかし残念だね。みんな怖くて動けないそうだよ。」
パンッ!
二回目の発砲音が響く。
どさっ……!
トートが倒れる。目を見開いたまま頭から血を流す。みるみる血溜まりが広がっていく。
「きゃーー!!」
シャントの悲鳴が響いた。
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