姫様、迷う
「あ~!それはシャントね!間違いないわ!」
リタが手をポンっと叩いて言った。アナスタシアはある人物を探している、この辺りで目撃情報があった、その人物の特徴は……と探ってみるとリタはあっさりシャントだと気づいた。
「シャント……。」
「ええ、その特徴なら間違いないわ。」
「あの、その人はどこに?」
「今は市街で住み込みで働いてるの。たまにここを手伝いに来てくれるのよ。」
「へ、へぇ……。」
「以前はここで一緒に暮らしてたんだけど、早く自立するんだって言ってね。あんなに泣き虫で甘えん坊だったのに……。」
我が子を誇るようなリタを見てアナスタシアは言葉に詰まる。
「あの子がどうしたのかしら?」
「えっ……えっと……。」
(この人は、あの子のこと信じてるんだな……。)
一瞬、アナスタシアの脳裏に亡き母が浮かんだ。
「実は、その人に落とし物を宿まで届けてもらって……。名前を告げずに行ってしまったみたいで……。」
「まあ!そうだったの!」
「ええ、是非お礼を言いたいと思って。」
「そう。わかったわ。私からあの子に伝えておきまふすね。」
「はい、そうして下さい。」
「ふふ。頂いたお菓子も食べさせてあげなきゃね。誉めてあげないと。」
「じゃあ、私達はこれで。」
「あら、もう?」
「はい、お邪魔しました。」
二人は席を立ち外に出る。
「あっー!しすたー!」
マールが声を上げる。
「おっ!終わったか。」
グレンが両腕に6人も子供をぶら下げながら振り向く。
「ああ、帰ろうか。」
「おう!」
グレンが屈んで子供達を降ろす。
「えー!もう帰っちゃうの~!」
「わたしもかたぐるま~!」
「さっきのグルグル回るやつやってよ!」
アナスタシアとリタが顔を見合せ笑う。
「こらこら!ワガママ言わないの!ほら、お客様にお礼を言って。」
「は~い。」
子供達が渋々グレンから離れる。
「ありがとーございました!」
「おうっ!じゃあな。」
「ずいぶんと人気者じゃないか?」
アナスタシアが笑いを堪えながら言う。
「はっ!子供には良い大人ってのが自然とわかるらしいな。」
「はいはい。」
二人は孤児院の皆に手を振られながら帰路についた。
「どうだった?」
「ごめん、言えなかった。」
「そっか。」
グレンはあっさり受け入れた。
「こっちこそ嫌な役任せて悪かったな。」
アナスタシアの肩をポンポン叩く。
「あのお菓子……ジイとプリシアにも買ってこうか。」
「ああ、そうだな。」
二人は市街へと並んで歩いて行った。
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