姫様、また来る
「で、また来たわけだが……。」
教会を前にアナスタシアが言う。
「でも誰もいねーぜ。」
扉を押し開け中を覗きながらグレンが返す。
「向こうに行ってみよう。」
二人は前回来た時のように脇道を通り孤児院の方へ向かう。すると子供たちの声が聴こえてきた。どうやら庭で遊んでいるようだ。
「あーー!!」
二人の姿を見つけたマールが大きな声をだした。
「あっ!」
「げっ!?」
男の子二人、オックスとラライも気づいた。
「よぉ!」
グレンが片手を挙げ声をかける。
「よお!」
マールが真似をして手を挙げる。
「こんにちは。シスター・リタはいる?」
「う、うん。中にいるよ。」
ラライが答えるとオックスが走って呼びに行く。しばらくするとシスター・リタが現れた。
「あら、貴方達!どうしたの?」
アナスタシア達の来訪を驚くリタ。
「すみません、いきなり。実は貴方にお聴きしたいことがありまして。」
「私に?いったいなにかしら?とりあえず中にどうぞ。」
二人を屋内へ招くリタ。アナスタシアとグレンは大きなテーブルのある台所へ案内された。
「ごめんなさいね、こんな所で。」
「いえ、こちらこそ急に来てすみません。」
すると廊下を女の子が泣きながら走っていった。その後を男の子が追いかける。
「コラッ!コリン!仲良くしなきゃダメでしょ!……ふふ、賑やかでごめんなさいね。」
リタが苦笑しながら言う。
「元気があって良いじゃねーか。」
「あっ、これどうぞ。」
アナスタシアが来る途中で買ってきたお菓子の詰まった袋を渡す。
「まぁ、ありがとうございます。子供たちが喜ぶわ。さぁ、座って下さい。」
リタは礼を言うと流し台へと向かい三人分のお茶を淹れて戻って来た。
「どうぞ、ろくなもてなしもできませんが。」
「いえ、ありがとうございます。……美味しい!」
「ふふ、庭で育てたハーブなの。口に合って良かったわ。」
リタがアナスタシア達の向かいに座る。
「ここは貴方が一人で?」
「ええ、そうよ。」
「そりゃ大変だな。何人いるんだ?」
「今は11人ね。」
「は~11人のお袋さんか!?」
「ふふふ。毎日賑やかで楽しいわ。そりゃ勿論大変ですけど……あの子達の成長を見ているとそんなの気にならないわ。」
リタはニッコリと笑う。
「あら?マール、どうしたの?」
いつの間にかマールが台所の入口に立っていた。
「かたぐるま。」
「え?」
「かたぐるまするの。」
マールがグレンを指差しながら言う。
「肩車?あっ……ああ肩車しろってか?」
マールがコクンと頷く。
「あらあらマール。今はお話中なのよ。」
「いや、いいんだ。」
グレンが立ち上がりながら言う。
「話ならこいつだけでいいしな。」
「ああ。少し遊んできなよグレン。」
「あいよ。」
グレンはマールの前まで行くとひょいっと肩車をし台所を出ていった。
「まあ、ありがとうございます。あの年齢の男の方がくるのなんて珍しいから面白がってるのね。」
「ははは、コキ使ってやって下さい。」
「まあ、酷い。」
リタも笑う。
「確かに普段は私一人ですけど、たまに大きくなってここを出ていった子達が手伝いに来てくれたりするんですよ。だからそこまで大変ってわけじゃ。」
「へぇ。そうなんですか。」
「みんな優しい子達。辛い生い立ちなのに……。」
「貴方のお陰でしょう。」
リタは首を横に振る。
「きっと聖女様のお導きね。」
「そうか、ここは教会でもありましたね。」
「ほとんど飾りみたいですけどね。お祈りなんてうちの子達以外来ないわ。」
リタは苦笑いで言う。
「え?じゃあどうやって……。」
「昔は……私が裁縫や洗濯の仕事をしたり街に寄付を募りに行ってなんとか生活してたわ。」
「昔は?」
「ええ、今は定期的に寄付があるの。どなたかはわからないのだけれど……かなりの金額を人を通じて届けてくれるの。」
「へぇ。そんな人が……。」
「届けてくれる人に聞いても口止めされてるって教えてくれないの。だから私も感謝して受け取ることにしたの。ふふ……本当に聖女様だったりして。」
無邪気に笑うリタは歳よりもずっと若く見えた。
「案外、本当にそうかもしれませんね。」
「そう言えば、私に聞きたいことって?」
「ああ、実は……。」
アナスタシアは本題を語りだした。
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