Interlude
(おっ!)
グレンは地下から上がってくる気配を感じ、柱の陰に身を隠した。ズズズッと石板が動きぽっかり空いた暗闇から人が出てきた。
(はぁ……どいつもこいつもまだガキじゃねーか。)
追いかけていた女怪盗と同じか少し上くらいの年齢らしき少年達。最後にあの女怪盗が地上に上がり再び穴をふさいだ。四人は散り散りに去っていき、辺りに静寂が戻る。
(うーん。行ってみるか……。)
アナスタシア達に報告するか迷ったが、如何せん相手はまだ子供といってもいい連中だ。一人でもなんとかなるだろう。
「よっと!」
軽々と石板を退かして地下への階段を下りる。
(……ん?まだ誰かいるのか。)
階段の先からはぼんやりと灯りが漏れていた。グレンは堂々と部屋へと進んだ。
「ん?忘れものか?……!?」
部屋の奥、椅子に座り本を読んでいたガットが顔を上げ固まった。
「なっ!誰だっ!」
ガットはポケットからナイフを取り出しグレンへ向ける。
「よぉ。まさか噂の怪盗団がお前らみたいなガキだったとはな。」
「……官憲じゃないな。どこかの用心棒か?」
ガットはグレンにナイフを向けたままジリジリと階段の方へと向かう。
「いや、ただの盗人に入られた大マヌケさ。」
「取り返しに来たのか。」
「ああ。手荒な真似はしたくねー。」
「…………。」
ガットはグレンを見つめる。この男なら簡単に自分程度簡単に倒してしまうだろう。それをしないって事は……。
「わかった。返したら帰ってくれるか?」
(さて、どうするか……。)
本来ならこの青年を縛り上げ、官憲につき出せば一件落着だ。
(はぁ……めんどくせーなぁ。)
グレンは俯いて頭を掻く。こういうのは相手が卑怯な小悪党がいい。
(なんだってこんな目をした奴なんだよ。)
深い溜め息をつきグレンが言う。
「ああ、わかった。」
ガットがナイフをしまう。
「盗られたのはいつだ?」
「えーっと……三日前だ。」
「ちょっと待ってろ。」
ガットが盗品が置いてある一画へ行きガサゴソと探し始める。しばらくすると両手に荷物をぶら下げグレンの前にやって来る。
「この中にあるか?」
「ん?」
床に置かれた荷物の山から自分達の盗品を探す。
「おっ!あったあった。」
自分のズタ袋や見慣れた仲間達の荷物を見つける。
「おー、良かったぜ。これがないとアイツの機嫌が悪くなるからな。」
グレンがアナスタシアの剣を片手に言う。他の荷物も調べると中身もそのまま手付かずだった。
「なんだ、金もそのまんまじゃねーか。」
「ちっ、運がいいな。金は明日分配する予定だったんだ。」
グレンはガットに向かって言う。
「悪いことはいわねー。もうこんなことやめとけ。」
「なに?」
「いつか、取り返しのつかない事になるぞ。」
「…………。」
ガットはグレンを睨む。
「わかってんだろ。いつまでも続くわけねー。今はお目こぼしされているが、国が本気になったら逃げれねーぞ。」
「くっ……。」
「お前が言ったように、俺がどこかの金持ちが雇った用心棒ならお前は死んでたかもしれねぇ。」
「!?」
「あのお嬢ちゃんだって、その気になればいつでも捕まえられた。」
「シャトンの事か……。」
「まだガキだがお前らの事は最後まで話さなかったぜ。まったく頑固な奴だ。」
「だろうな……。」
ガットが口の端をあげる。
「仲間を守りたきゃもうやめとけ。忠告はしたぜ。」
そう言うとグレンは荷物を抱え地下室を出ていく。その背中を見つめるガット。
「やめられないんだよ……やめたら……どうやって生きろっていうんだ……。」