姫様の企み
内心このような手段をとらなくてはならないことに迷いがあったが、アナスタシアは努めて冷静に告げた。
「くそっ!シスターは……シスターは関係ないだろ……!」
女怪盗は俯いて悔しさを滲ませながら呟く。アナスタシアは他の三人の方を振り向き、
(どうしよっか?)
と視線で問う。三人とも返答に困ってしまう。
「はぁ……。どうしたもんかなぁ。」
アナスタシアがストンッとベッドに座る。
「君を官憲に引き渡したところでこの調子でダンマリなんだろうな。」
「仲間は売れない……。」
女怪盗が呟く。
「仲間思いなのは結構だけど、君らのやってることは犯罪だ。」
「そんなことわかってる!それでも、そうでもしなきゃ生きていけない人だっているんだよ!お前らみたいにこんな立派な宿に泊まれる奴らにはわからないんだ!」
「どうせお前らにはわからないか……。」
「そ、そうだよ。」
「まあ、そうだろうな。私は君達の事情も過去も知らないしね。」
アナスタシアは溜め息をつくと後ろに控える三人のもとへ歩いていく。
「~~~~。」
何事かを短く話すと再び女怪盗の側へ来る。
「君の強情さには負けたよ。」
「え?」
「もう諦めるよ。もともとそれ程大切なものじゃないし。お金はまだまだ余裕があるしね。」
アナスタシアは挑発するように言う。
「けっ!嫌味なやつだな。」
「ふっ。でもそのお陰で君は解放されるんだ。」
「………。」
「ほら、さっさと行きなよ。」
アナスタシアは窓を開けてやる。
「入口行くと怪しまれるかもしれないからね。もう捕まるなよ。」
「…………。」
女怪盗はアナスタシアを警戒しながら窓に向かう。そのまま窓枠に足をかけ軽快に屋根に上る。
「さて……。」
アナスタシアがグレンを見る。
「オーケー。行ってくるわ。」
グレンは窓の外を覗く。女怪盗が走り去る背中が見えた。素早く屋根に上がるとグレンはその背中を追いかけていった。
「なんか気が引けますね……。」
「だね。でもこうでもしなきゃアジトの場所がわからないし。」
「ふむ。ではグレンの報告を待ちますかな。」
残った三人は追跡をグレンに任せ休むことにした。