姫様、出会う
「ここも駄目か……。」
街の北東部、五つ目の教会を訪れたアナスタシアとグレンは首を傾げる。
「シスターって言うくらいだから教会にいると思ったんだがなぁ。」
「もしかしたらこの街じゃないのかも。」
「それじゃあもう探しようがねーな。」
「だね。仕方ないもう夕方だし宿に帰ろう。」
「爺さん達、なにか聴けてればいいんだが。」
二人は夕日の下を歩いて宿へ向かう。
「地図だとこっちから行った方が近道みたい。」
地図を見ながら歩くアナスタシアが言う。
「スラムか。突っ切って行くか。」
二人はスラムへと通じる路地へと入った。広くはない路にはぼろぼろの服を着た人々が座り込んでいる。アナスタシア達が目の前を通ると無機質な視線を向けてくる。夕飯の準備だろうか、建物から煙が出ている所もある。
「あんたら観光客かい?どうだ買っていかないか?」
露店商の男に声をかけられる。並べられた品を見ると謎の置物やどこから拾ってきたのかガラクタばかりだ。
「いや、遠慮しとくよ。」
そう言うアナスタシアに聞こえよがしに舌打ちをする男。その後も何度か声をかけられたがこの度に断る二人。すると路の脇から如何にもな風貌をした男達が五人、アナスタシア達の方へ歩いてくる。
「やれやれだな。早く抜けた方が良さそうだ。」
「そうだね。走るか……。」
二人は歩いてくる男達に向かって疾走する。
「!?」
虚を突かれ固まる男達。跳躍し男達の頭上を越え走り去るアナスタシアとグレン。男達は特に追ってくることはなかった。ある程度離れると二人は立ち止まり地図を見る。
「さて、二つ先の十字路を右に曲がれば出られるな。」
路を確認し歩きだす二人。すると今度は前方から子供達が走ってきた。
「ほらっ!急げって!」
「まってよ~!」
「まったく!お前はいつもトロいんだよ。」
家へ帰る途中だろうか。子供達はずいぶん慌てている。アナスタシア達とすれ違い様に女の子が転んだ。
「きゃ!…………ふぇ~ん!!」
膝を擦りむいたのか泣き出してしまう女の子。前を走っていた男の子二人が戻ってくる。
「なにやってんだよー!」
「ふぇ~ん!だってー!!」
大泣きしている女の子に困り果てる男の子達。
「こら!男ならその子を背負って走るくらいしてやれ!」
グレンが男の子達の頭を鷲掴みし髪をぐしゃぐしゃにする。
「わっ!わっ!な、なんだよ~!」
「や、やめろ~!」
アナスタシアは泣いている女の子に近づくと膝をついて話しかける。
「大丈夫?どこが痛い?」
「ふぇ?…………ここ。」
血の滲む膝を指差す女の子。
「二人ともこれを濡らしてきてくれないか?」
アナスタシアがポケットからハンカチを取り出し男の子達に渡す。
「え?な、なんで?」
「えーやだよー!」
男の子達は抗議の声をあげる。
「お~ま~え~ら~!」
グレンが指をボキボキ鳴らす。
「い、行ってきまーす!」
二人はハンカチを受け取り近くの民家へ向かった。知り合いだろうか年配の女性が出てきてハンカチを受け取ると濡らして男の子達に渡す。
「は、はいっ!」
「これでいいんだろ!」
「ああ、ありがとう。」
女の子を泣き止まそうと頭を撫でていたアナスタシアが濡れたハンカチで傷口綺麗に拭いてやる。さらに腰に下げた道具袋から薬草と包帯を取り出し膝に巻いてやる。女の子はキョトンとしてされるがままだ。
「よし、これで大丈夫。歩ける?」
女の子は潤んだ瞳で首を横に振る。
「仕方ねーな。届けてやるか。」
グレンが女の子をひょいっと持ち上げ肩車してやる。
「わっ!わっ!たかーい!」
女の子は視界の変化に痛みを忘れたようにはしゃぐ。
「家まで案内してくれる?」
アナスタシアが男の子達に言う。二人は急いでいた理由を思いだし慌てた様子でいった。
「う、うん!」
「そうだっ!早く帰らないとシスターに叱られる!」
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