姫様、見つける
「どうだった?」
早朝、宿に戻ってきた一同はアナスタシアの問いかけに溜め息をつき首を振る。
「まあ、そう上手くはいかないか……。」
「そうですな。奴らも連日は動かんのでしょう。」
「ふぁ~。怪しい人は見つからなかったです。」
四人は部屋へと戻り眠りにつく。また今晩も街へと繰り出さねばならないのだ。
※※※※※
そんな昼夜逆転した生活が始まってから二日が経った。今晩も四人は街の南西部に出て夜回りを行う。
「ふ~む。こうして毎晩夜の街を歩くのは不思議な感じがしますねぇ。」
プリシアはランプを手に路地を歩く。富裕層の住む地域だけあり街並みは美しくこうして静かな月夜に歩くのは少し幻想的である。
「~♪」
鼻歌を歌いながらステップを踏むプリシア。広い路地から奥に入り右に曲がる。
「~♪……んん?」
足を止める。
(あれ?人?)
路地の先、民家の三階の窓から人影が出てきた。プリシアは気配を殺し目を見張る。
(ま、ま、まさか!?)
人影は器用に屋根に向かい壁を登っていく。
(みつけてしまいましたー!?)
心のなかで絶叫するプリシア。
(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け……。)
人影は屋根に立つとプリシアのいる方とは逆に走り出した。
「あっ!!待って!」
慌ててプリシアも走り出す。しかし、人影の方が圧倒的に早く見失いそうになる。
(こ、これを!!)
プリシアは走りながら小石程の大きさの宝石を取り出す。それを思いっきり空に投げた。
「えーーーいっ!」
空に目映い閃光が走る。夜回り作戦を実行するにあたりヴォルフから皆に渡されていた宝石。強く握り空に投げると数秒後に閃光を発するヴォルフ特製の道具だ。
「!?」
突然の閃光に人影は立ち止まりその姿を露にする。
(あれ?女の人?)
遠目に見えたその姿は小柄で思っていたよりもはるかに線が細かった。光が次第に弱くなると人影は辺りを見回した。
「!?」
追跡者を見つける人影。
(見つかった!?)
プリシアは追跡に気付かれた事を悟る。人影は再び走りだした。先ほどよりも速く。
(だめ!見失う!)
その時、前方から再び目映い閃光が走った。
(誰か来てくれたんだ!)
プリシアが腕を翳して光から目を庇いながら前方に走る。
(あれはっ!)
「姫様っ!」
向こうからアナスタシアが走って来るのが見えた。どうやらアナスタシアもプリシアに気がついたようだ。アナスタシアは向かって右側を指差している。
「右……はいっ!」
瞬時に右に追い込めという意味だと察するプリシア。人影は向かい側から来た新たな追跡者を避けるように右側へ走り出した。アナスタシアとプリシアは夜の街を全力疾走する。