姫様、宿に戻る
「こっちですよ~!皆さん早く早く~!」
プリシアが階段を昇りきった所で手を振っている。アナスタシア達は朝からプリシアの考えた"完璧な"コースを巡っていた。
「ここはルチアーノ美術館です。フェールズ出身の画家ルチアーノの作品が数多く展示してあるらしいです。」
「ほぅ。ルチアーノとな……。確か100年程前の画家じゃったか。」
「はい、色彩豊かな独特の画風で有名な方……らしいです。」
観光冊子を読みながらプリシアが言う。
「とりあえず入ってみようか。」
と、まあこの調子で一行はフェールズ巡りをしていた。この日は5箇所の美術館、博物館を訪れ宿へと帰る事にした。考えた予定通りに観光できプリシアは終始ご機嫌である。
「ふふ~ん♪明日は~♪どこに~♪いこうかな~♪ここ!」
プリシアがベッドに寝ながら脚をバタバタする。そんなプリシアを苦笑いしながらアナスタシアが見ている。
(まあ、楽しそうだし……いいか。)
「さて、寝ようか。」
「はーい!」
アナスタシア達の灯りが消える。
※※※※※
翌朝、四人が宿からでると騒ぎが起こっていた。
「号外~!号外~!」
少年がぶら下げた鞄からチラシをばらまいて走っていった。
「なんだありゃ?」
グレンがチラシを拾う。周りでも多くの人が同じようにチラシを読んでいる。
「なになに……またしても怪盗団現る。今回の標的はアーセル博物館の金の首飾り……怪盗団?」
「なになに?」
「なんて書いてあるんですか?」
アナスタシアとプリシアが覗き込む。
「怪盗……?」
「アーセル博物館って昨日行きましたね。」
周りを見渡すとフェールズの住人達が、
「またか……。」
「これで何回めだよ?」
「やれやれ官憲もだらしねーな。」
等と話している。
「もしもし、つかぬことをお訊きしますが……。」
ヴォルフが近くにいた男に声をかけ話を訊く。
「なんだ、あんたら住民じゃないのか。なら知らないわな。この街じゃあかなり前から怪盗団が暴れてんのさ。」
「ほぅ。それは物騒ですな。」
「まあ、狙われるのは金持ちや美術館だけだし、人殺しとかはしなみたいだから暴れるってのは違うのかな……。で、盗みの跡には"黒猫怪盗団"のカードが落ちてるんだとよ。」
「それはまたシャレたことをする輩ですな。」
「だろ?まあ俺ら庶民には良い酒の肴さ。」
男は笑うとチラシを手に去っていった。
「だ、そうです。」
「怪盗ねぇ。」
「まあ、私達旅人には関係なさそうだね。」
「だろうな。そのうち官憲が捕まえるだろ。」
「怪盗と泥棒って何が違うんでしょう?」
四人は件の怪盗の話に花を咲かせながら最初のプリシアおすすめコースへと向かった。
※※※※※
「なかなか良い街だったな。飯も美味かったし。」
レストランで食事を終えた四人。
「風光明媚じゃ。」
「ふふふ、たまにはこういうのも良いですね。」
「だね。さて……そろそろ宿に帰って次の行き先決めようか。」
「だな。んじゃ戻るか。」
席を立ち宿への帰路につく四人。
「すっかり遅くなりましたねぇ。」
「ああ、でも良い息抜きになったよ。」
道すがら夜風にあたりながら宿へと到着する。
「じゃあ私達の部屋で行き先決めようか。」
アナスタシアが部屋の鍵を開ける。暗闇の中、入口付近に置いてあった燭台に火を灯す。
(あれ?)
何か違和感がする。奥のテーブルの上やベッドサイドの燭台にも火を灯し、ようやく部屋が灯りに満たされる。
「あれ~?」
プリシアが声をあげる。
「私、荷物どこにおいたかなぁ~。」
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