姫様、出立
翌朝、屋敷の前では馬車がアナスタシア達の出立を待っていた。
「皆さん、本当にありがとうございました。」
ロイドが頭を下げる。
「こちらこそ、お世話になりました。」
アナスタシアが答えながら右手を差し出し握手をする。
「ほら、エマ。」
ロイドがエマの背中をそっと押すと、涙を堪えながら一歩踏み出す。
「これ……!」
エマがプリシアに包みを差し出す。
「これは……?」
プリシアが屈んで受け取る。
「良い匂い。これ、クッキーですか?」
「うん。早起きして焼いたの。みんなで食べて。」
「はっはっはっ。朝から使用人に手伝ってもらって焼いたんですよ。どうしても自分でやるってきかなくて。」
プリシアの眼に涙が浮かぶ。ガバッとエマを抱き締めるプリシア。
「わっ!な、なに!」
「エマ……ありがとうございます。」
「うん。」
エマもプリシアの背に手を回す。暫く抱き合った二人はやがと身体を離す。
「ふむ。名残惜しいが、そろそろ行こうかの。」
「だな。このままじゃ日が暮れそうだ。」
グレンがニカッと笑う。
「はい!」
プリシアは立ち上がるとペコリとお辞儀をする。
「ありがとうございました!さようなら!」
「うん。また会いに来てくれる?」
「はい!勿論!」
「また、いつでも来て下さい。歓迎しますよ。」
アナスタシアが他の三人を見る。
「よしっ!出発しようか。」
「はっ!」
「はい!」
「おうっ!」
四人は馬車に乗り込む。
「街の入口まで頼めるかの。」
御者の掛け声で馬車が出発する。プリシアが窓から身を乗り出して手を振る。
「プリシアー!またねー!」
エマが父と手を繋ぎながら大きく手を振っている。
「エマー!また会いに来ますからねー!」
プリシアもエマ達が見えなくなるまで手を振り続けた。
※※※※※※
「さて……。」
首都マイルの入口。四人はヴォルフの広げた地図を覗き込んだ。
「次は何処に行くんですか?」
「うーん。そう言えば決めてなかったなぁ……。」
皆の視線がアナスタシアぬ集まる。
「と、とりあえず……ここにしよう!」
アナスタシアが地図を指差す。
「フェールズ?」
フェールズはここマイルから西に進んだ地域に位置する都だ。
「ふむ。良いのではないですな。ここなら南北西の国境へも同じくらいの距離ですし。」
「そうそう。途中に三つくらい小さな町や村があるから経由しながら向かおう。」
「ほぅ。どうやら旅の仕方がわかってらっしゃいましたな。」
「あ、ああ!勿論!」
「へ~。ちゃんと考えてんだな。」
「凄いです~!」
「う、うん……。」
(言えない……。適当に選んだなんて……。)
「よしっ!行こうか!」
四人は街を出ると西へ向かう街道を歩き始めた。
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