Interlude
同刻、城の一室には国王アセルス、大臣ステファン、近衛隊長ミアソフ、そしてヴォルフが集まっていた。
「ふぅ……ヴォルフよ。そなたがついていながらなんたる様だ。」
もう何度目かの王の言葉にヴォルフももう何度も繰り返した言葉で返す。
「いやはや面目次第も御座いません。」
ステファンが咳払いをして話を進める。
「陛下、もうそれくらいで。ヴォルフ殿、ミアソフ、実は今回の事で二人の耳に入れておきたい事が。」
「ん?儂らにじゃと?いったいなんじゃな?」
「今回の事とおっしゃると魔物討伐の事ですかな?」
ヴォルフとミアソフが尋ねるとステファンが頷く。
王は目を瞑り難しい顔をしながら大臣の話の続きを待っている。
ステファンはそんな王の様子を見て話を続ける。
「討伐隊が城をたってから二日後に隣国のロートル王国から書簡が届きました。」
ロートル王国はアイソルから西に進むとぶつかるカタート山脈を越えた先にある国だ。
「ほう、ロートル王国から。して……内容は?」
「はい。それが、ロートル王国の領内で魔物の出現報告があったというものでした。」
「なんと!?ロートル王国でも魔物が……!」
「左様。領内で複数の被害報告があり、我が国と同じく討伐隊を編成し派遣したというものでした。」
「…………。」
王は目を瞑り黙って聞いている。
「結果、四頭の魔物を討伐したそうですが、残念ながら5名の兵士の命を失ったと……。」
それを聞いてミアソフとヴォルフの顔が強張る。
「ロートル王国は我が国や近隣諸国に魔物の出現を報せ注意を促しているようです。」
ステファンが話終わると王が口を開く。
「おそらく、タンザ村に出た魔物も西から流れてきたのであろう。西で生存競争に負けた魔物がより競争相手の少ない東の我が国領内に現れたというわけだ。そういう意味ではまだ弱い魔物であったのは僥倖であった。」
「陛下……これはいったい……。」
ミアソフが王に問うがアセルス王は首を振ることで答える。
「記録ではここ50年で領内に出た魔物はいません。私でも10年程前に西国に武者修行へ行った際に数回戦ったのみです。」
ミアソフの言葉にヴォルフも続く。
「南西の大陸から現れる魔物はカタート山脈を越えないというのが通説じゃ。カタート山脈に到達する前にどこかの大国で討たれる。魔物としても険しい山脈を越えてまで獲物を探すのは得策ではない。」
「左様です。ヴォルフ殿の言うように我が国領内まで魔物が来るのは考え辛かった。」
「……今まではな。」
王の一言で全員黙ってしまった。
「どうやら西で何かが起こっているようですな。」
ヴォルフが沈黙を破る。
「当然、我が国としても民を守る為に何もしないというわけにはいかん。」
王が決意の言葉を口にするとミアソフが立ち上がり敬礼する。
「陛下!我らアイソル兵団、一丸と成りまして国防に尽力致します!」
「うむ、頼んだぞ。」
王の期待に深く頭を垂れて答えるミアソフ。
ヴォルフかステファンに尋ねる。
「西で何か起きているとして……情報を得る手段はあるのかの?」
「はい、大陸西部にも僅かながら国交のある国がありますので情報提供を頼んでみます。」
「ふむ。素直に教えてくれれば良いがの。如何せん平和が長すぎた。」
「左様。いまや殆どの国が自国内で自給自足できてしまっております故、国家間の交易は一部の都市のみです。」
「人は繁栄し過ぎたのかもしれんな……。」
「ヴォルフ殿?」
ステファンがヴォルフに怪訝そうな顔を向ける。
慌てて取り繕うヴォルフ。
「いや、失敬失敬。歳をとると疑り深くていかんなぁ。うぉほん!兎に角、儂に出来ることがあれば言ってくれ。枯れ木に等しい老体じゃが鞭くらいは打つぞ。」
「それは心強い。ヴォルフ殿、痛み入ります。」
こうして、夜の会談はお開きとなった。
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