Interlude
アラミス議員の屋敷。その一室でヴォルフとグレンは嘗ての敵の黒幕から話を聴く。
「私とロイド議員とは子供の頃からの知人でね……。私も彼も父親が同じく議員をしていたのでその関係で親しくしていたんです。」
「それってダチって言わねーか?」
グレンの茶々にアラミスが僅かに笑う。
「そう言っていいかもしれません。とにかく私達はよく一緒にいました。一緒に遊び、一緒に学び、いつしか同じ夢を抱くようになりました。父と同じく議員となりこの国をより良い方向に導こうと。」
「ふむ。お二人とも立派に夢を叶えたというわけですかな。」
ヴォルフの言葉にアラミスは首を振る。
「いえ、まだまだ志し半ばです。この国は多くの問題を抱えています。目に見えるところも見えないところも。」
アラミスが一瞬ガトーを見る。
「例えば貧富の差です。お二人は街の外れにある所謂貧民窟には行かれましたか?」
ヴォルフとグレンが首を振る。
「ここ富裕層が住む居住区とは違い貧民窟では今日の食事にも困る人達が多勢います。犯罪率も比べ物にならないくらい高く、官権も実質見て見ぬふりをしている状況です。」
「ほう、そのような一面が……。」
「私とロイド議員は貧民窟への援助、職の斡旋や子供たちへの教育、生活環境の改善などを推進していました。」
「アミークラが現れるまでは?」
「はい。あの占い師を名乗る女がロイド議員の秘書についてから全てがおかしくなりました。彼は今迄の貧民窟への支援を打ち切り隔離政策を提唱するようになりました。」
ガトーがそっと拳を握る。
「もともと議員の中には貧民層を切り捨てる思想を持つものも少なくはありませんでした。そういった連中がロイド議員を支持するようになりました。私は何度もロイド議員と直接対話を試みました。しかし、彼は一切聞く耳を持ちませんでした。あの占い師に心酔していたのでしょう。そのうちに前議長が急死なさいました。今となっては……。」
「アミークラの仕業だったのかもしれませんな。」
アラミスが頷く。
「彼は次の議長に立候補しました。今の彼が議長になればそれはあの占い師にこの国が弄ばれるのも同義でした。だから私は議長選に立候補し、彼の目論見を頓挫させねばなりませんでした。」
「どんな手段を使っても……と?」
「はい。その通りです。」
「なるほど。おおよその事情は理解しました。ロイド氏は操られていた事を悔い議長選を降りるようです。」
ヴォルフが紅茶を啜りながら言う。アラミスはほっとした表情で、
「そうですか……。」
とだけ言った。
「はぁ~ずいぶんご立派な話だな。国の未来の為か。」
アラミスはグレンを見据える。
「ご立派な正義や大義も、そのための手段が人殺しかよ。」
グレンの言葉には怒りが混じっていた。最初の夜、エマと共に襲撃され命を落とした御者の事を言っているのだろう。
「あれはっ!俺の判断だ……。」
ガトーが割って入る。アラミスがガトーを手で制すと、
「仰る通りです。私はこの国の為なら手段を選びませんでした。政治は綺麗事ではないのです。」
「そうかい。悪いが俺には難しすぎるぜ。」
張り詰める空気の中、ヴォルフが咳払いをする。
「さて、我々はそろそろお暇しようかの。」
ヴォルフがゆっくり立ち上がるとグレンもそれに従う。
「理解して頂けるとは思いません。ですが今回の一件についてはお礼申し上げます。」
アラミスが二人の背中に頭を下げる。
「ふむ。その志し、陰ながら応援しておりますぞ。」
ヴォルフは振り返りそう言うと、グレンと並び部屋を出ていった。
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