Interlude
「敵陣……ってわけでもないのか、もう。」
ウィルビー家を前にグレンが呟く。
「警戒するのも無理はない。」
ガトーが応える。ガトーが門の横にある詰所にいた守衛に一言二言告げると門が開いた。そのままガトーに導かれ屋敷の中へと入っていくと豪奢な内装の応接室に案内された。
「へ~、ベルナールの屋敷も凄かったがここも負けず劣らず豪華なもんだぜ。」
「ふむ。アラミス氏は彫刻に造詣が深いのかのう。」
二人が感想を言う。すると扉が開き使用人が紅茶と菓子を持ってきた。
「あっ、どうも……。」
グレンが置かれた紅茶を見つめる。ガトーが自分の分に口をつけて、
「信用してくれるならでかまわない。」
と告げる。
「ああ。そうだな。」
グレンは紅茶を一口飲んだ。ガトーが僅かに口の端を上げて微笑んだように見えた。
「失礼、お待たせしました。」
謝意の言葉と共に扉が開き、屋敷の主人アラミス=ウィルビーが入ってきた。アラミスは三人の側に来ると改めて挨拶をする。
「お初にお目にかかります。私がアラミス=ウィルビーです。」
名を名乗るとヴォルフに手を差し出す。ヴォルフは立ち上がると自分も手を出し握手を交わした。
「ヴォルフと申します。」
続いてグレンもヴォルフに倣い立ち上がり握手をする。
「グレンだ。」
アラミスは微笑むと自分もソファに座る。
「まずはお礼を言わせて下さい。この国の脅威を退けて頂きありがとうございました。」
アラミスが頭を下げる。
「脅威とな?」
「はい、あの女占い師……聴けば魔術師だったとか。」
「ふむ。アラミス殿は初めからあの魔術師を?」
「はい、ロイドを……いや、ベルナール議員を惑わしているのは彼女であろうとは思っておりました。」
「じゃあなんであのお嬢ちゃんを狙ったりしたんだよ?」
アラミスは僅かに溜め息をつき答える。
「最初からお話致しましょう……。」
※※※※※
「できましたー!」
プリシアが布手袋をはめた手でオーブンから焼きたてのクッキーを取り出す。
「うんうん。上手く焼けました!」
ニコニコしながら満足そうに頷く。
「こりゃ旨そうだ。」
「本当だ、たいしたもんだね~。」
調理場にいた使用人達がクッキーを見て感心している。プリシアは紙を敷いた籠にクッキーを入れて使用人達に渡す。
「あれ?いいのかい?」
「あんた、お嬢様と食べるんじゃ……。」
「ふふふ、大丈夫です。皆さんにも食べてほしくていっぱいつくったんですよ。」
「そうかい?じゃあ遠慮なく。」
一人の使用人がクッキーの山から一つ摘まみ口に運ぶ。
「こりゃ旨い!アンタ才能あるんじゃないかい?」
「へへへ~ありがとうございます。」
頬を染め照れるプリシア。他の使用人も次々クッキーを食べる。
「しかし、寂しくなるね~。」
「ほんとほんと。プリシアちゃんの声が聞こえなくなるとねぇ。」
空気がしんみりしたものへと変わる。プリシアは滞在中に度々食事の準備や洗濯、掃除などをこっそり手伝いに来ていた。最初は使用人達も困惑していたがあまりにプリシアが頼むので、ロイド達にばれないように秘密で仕事を手伝ってもらっていた。そんな経緯もありプリシアはすっかり使用人達と仲良くなっていた。
「短い間でしたがお世話になりました。」
プリシアがぺこりとお辞儀する。
「こっちこそプリシアちゃんがいてくれて助かったよ。」
「そうだよ!まったく可愛いんだから!」
抱きしめる者、頭を撫でる者、涙ぐんでいる者もいる。おばさん使用人たちにもみくちゃにされるプリシア。
「あ、ありがとうございます。」
「ほら、お嬢様の所にいっておやり。」
プリシアは尻を叩かれて作りたてのクッキーをバスケットに入れて調理場を出た。
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