姫様、そろそろ次の地へ
夕食の席にはアナスタシア達四人と館の主人であるロイドがいた。
当初は酷く取り乱し話を聞こうとしなかったロイドも、アミークラの部屋を目の当たりにした事と、エマの証言により目が覚めたのか自らの行いを恥じ一同、特にエマに詫びた。
「はぁ……皆さんにはなんとお礼を申し上げたらよいか。」
もう何度も聞いた言葉を繰り返すロイド。四人は苦笑いしながら食事に手をつける。
「今更ですが、議長選挙からは降りることにしました。」
妙にさっぱりした表情でロイドが言う。
「それはまた……よろしいのですかな?」
ヴォルフが問いかける。
「はい。今回の事で思い知りました。私はそんな器ではなかった。国民の信頼も失ったでしょう。」
「でもそれは……アミークラに騙されてたからで……。」
アナスタシアが言うがロイドは首を振る。
「そうだとしても、彼女の甘言に乗せられこの国を混迷の道に進ませ用途したのは私です。」
「ふむ。意思は硬いようですな。」
「ええ。初心に返りこの国のために私に何ができるか考えてみます。またいつか国民の信頼を得られるように。」
そう言ってロイドは笑った。これが本来の彼なのだろう。
「それに娘との時間も作ってやりたくて。」
そう言うとエマの席を見る。しかし今はその席の主はいない。
「ははは、すみません。まだまだ子供ですね。拗ねてしまったのかな。」
ロイドが苦笑しながら詫びる。プリシアが心配そうにエマの席を見つめる。昼間、プリシアがエマにこの屋敷を発つ事を話すとエマは目に涙を溜め自室に籠ってしまったのだ。どれだけ廊下から呼び掛けても出てくる様子はなく、とうとう夕食の席にも現れなかった。
「やれやれ、あの娘ときたら……。本当にプリシアさんを慕ってるんですね。」
「あ……いえ……その……!」
プリシアが慌てて掌を振る。
「それで、いつ頃後出立されるんですか?勿論私どもはいつまでもいて下さってもいいのですが。」
ヴォルフ、プリシア、グレンがアナスタシアを見る。
「えーそうだなぁ。旅の準備もあるし……三日後かな?」
「なるほど、わかりました。何か必要な物があれば言って下さい。こちらでも用意します。」
「それは忝ない。助かります。」
夕食が終わると各々自室へと引っ込んだ。プリシアはもう一度エマの部屋へと向かう。ドアをノックするが反応はない。もう寝てしまったか。プリシアはドアの前で語りかける。
「あのっ!私たち、三日後にここを発つ事になりました。」
中からガタンッと音がした。
「私、エマとお話したいです。このままお別れは寂しいです。」
沈黙。しばらく待っていたがドアが開く気配はない。
「明日は出てきてくれると嬉しいです……。お休みなさい……。」
そう言うとプリシアは自室へと戻った。
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