姫様、城に帰ってくる
次の日、アナスタシア達が村を出立すると知った村人達は仕事そっちのけで村の入り口に集まっていた。
一人ずつアナスタシアに礼を述べ王家を称えるのであった。
最初は素直に喜んでいたアナスタシアも10人、20人と続いてくると流石に笑顔がひきつってきた。
目線でヴォルフに助けを求めると、わざとらしく咳払いをしてヴォルフが間には入る。
「姫様、そろそろ村を出ませんと……。」
「あ、ああ……そうだね。」
(た、助かった……。)
アナスタシア達が馬車に乗り込もうとすると最後に宿屋の家族が近づいてきた。
「姫様、本当にありがとうございました。」
「このご恩は忘れません。」
夫妻が頭を下げる。
「ははは、気にしないで。こっちこそ色々世話になった。」
「そんな!勿体ないお言葉!」
「メルもありがと。」
アナスタシアが女将に抱っこされているメルに話しかけるがメルは母親の胸に顔を埋めてアナスタシアを見ようとはしない。
「もう、この子ったら。姫様がお帰りになると知って今朝からずっとこんな感じなんですよ。」
「………。」
メルが幼いなりに無言の抗議をする。
アナスタシアは微笑みメルに話しかける。
「メル、私は城に帰るけどもう会えなくなるわけじゃないんだ。必ずまたメルに会いに来るよ。」
「…………。」
顔を上げてくれないメルに少し寂しげに微笑むと馬車に向かうアナスタシア。
「あなちゅたちあたま……。」
メルがアナスタシアを見つめる。
朝から泣いていたのだろう。
涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだった。
アナスタシアが女将からメルを受け取り抱き締める。
しばらくメルとの別れを惜しんだら先に馬車に乗っていたヴォルフがアナスタシアを呼ぶ。
「姫様!」
「ああ、今いくよ!」
メルを女将に返し手を降って馬車に乗り込む。
メルも手がちぎれるかと思うほど手を振っている。
やがて馬車が動きだし、後方から聴こえる村人達の感謝の言葉が遠ざかっていく。
「終わりましたな……。」
「ああ……。」
「どうでしたかな?視察は。」
アナスタシアは目を閉じてここ数日の事を思い出す。
「色々ありすぎて、一言では言えないよ。」
「左様ですか。ソレはよろしゅう御座いましたな。」
ヴォルフが笑顔で言う。アナスタシアも満足気に微笑むのであった。
※※※※※
アナスタシア達が帰還するとすぐに王への報告が行われた。
隊長のオライオンが未だタンザ村に残っているので代わりにヴォルフがここ数日の経緯を伝えることとなった。魔物討伐の成功を知った王はたいそう喜び討伐隊を労った。
次にアナスタシアも討伐に加わった事を知ると額に青筋を立てながら怒り狂った。
アナスタシアの件は秘密にしておくべきかとも思ったが、あの実直なオライオンが話してしまうだろうと考え包み隠さず報告することにした。
幸いアナスタシアの怪我もたいしたことなかったので誰かが責任を取らされる事はなかったが、唯一アナスタシアが数日間、王の許可なく自室から出ることを禁じられた。
※※※※※
自室に軟禁状態となったアナスタシアはプリシアにタンザ村での出来事を語る。
プリシアは魔物の姿に怯え、アナスタシアの戦いに手に汗握り、聞き終わる頃にはすっかり疲れてしまっていた。
「は~姫様、物凄い経験をされたのですね。」
「まあね。でも思い知ったよ。私なんてまだまだなんだって。」
「まだまだって……姫様は姫様なんですから別に強くなくても……」
プリシアが当然の反応をするがアナスタシアは全く聞いておらず、剣を素振りする真似をしながら
「もっともっと剣も魔術も修行しなくちゃね!」
などと言うのであった。
「もう!姫様ったら、陛下に叱られたばっかりじゃないですか!」
プリシアの嘆く声が響くのであった。
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