姫様、気絶中
「よく出てこれたわね。四重に結界を張ったんだけど。」
アミークラが静かに言う。
「ふむ。なかなかの出来じゃったな。一つずつ解呪していては時間がかかりそうじゃったのでな、ロイド氏には悪いがドアごと壊させてもろうた。」
「せっかく朝までゆっくりお休み頂こうと思ったのに。」
「ゆっくり?はて?あれ程騒いでおいてゆっくりとは。」
アミークラの目が鋭くなる。自分の作った結界が不出来だったと言われたようなものだからだ。
「一応確認じゃが……お互い些細なすれ違いや勘違いでこうなっておるわけではあるまいな、アミークラ殿?」
「さて……どうかしらね?」
アミークラが肩を竦める。
「ここ数日、お主の動向をそれとなく探ってはおったんじゃが、なかなか尻尾をだしてくれなくての。」
「あら?私に尻尾なんてないわよ。」
「ふむ、じゃからこの屋敷自体を探ってみたのじゃ。そしたら屋敷のあちこちに様々な呪法が施されておっての。」
「ふ~ん。目は付けられてたのね。」
ヴォルフが不敵に嗤う。
「さて、どうしたものか。闘うしかないのかのぅ。」
「ふふふ。素直に爺やさんが殺されてくれるなら避けられるわ。」
「フォフォフォ。それは無理な相談じゃ。」
ヴォルフが杖を翳す。応じるようにアミークラが片手を前に出す。
「ここでは狭かろう。」
ヴォルフの杖から光弾が放たれる。アミークラに向かって飛ぶ光弾は途中で曲がり玄関扉を破壊した。
「!?」
アミークラが一瞬ヴォルフから目を離した隙に姿が消える。
「では参ろうかの。」
いつの間にか接近していたヴォルフが近距離からまたしても光弾を放つ。即座に障壁を張るアミークラ。光弾を受け止めたまま破壊された扉の方へ押されていく。すかさずそれを追うヴォルフ。チラッとアナスタシア達の方に視線を送るとグレンと目が合う。頷き合う二人。ヴォルフはそのまま外へと出ていった。
「ずいぶん強引なエスコートね。」
アミークラが塀の上に立ちながらヴォルフを見下ろす。
「失礼した。しかしこうでもせんと付き合って下さらんかと思っての。」
強風に髪を流されながらアミークラが周囲に魔方陣を出現させる。
「ほう……たいしたもんじゃ。」
ヴォルフも杖を翳し同様に魔方陣を出現させる。
「………。」
一瞬の睨み合いのあとほぼ同時に動きだす。互いに魔方陣から光弾、光線を放ちながら死角を奪い合う。
「はっ!」
ヴォルフが杖をくるくると回しアミークラを打ち据える。
「ふっ、よく動くわね。」
隠し持っていた短杖でそれを受け止めるアミークラ。
「まだまだ若い者には……。」
「わざわざ冷水を浴びることはないわ。」
互いの杖が光二人の間で炸裂する。双方が吹き飛ばされまた向かい合う。
夜の街、二人の魔術師の闘いが始まった。
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