姫様の寝てる間に
爆音が轟いた。頭上から。
アミークラが咄嗟に上を見る。バラバラと木片が落ちてくる。爆発が起こったと思われる場所からは白く埃が立ち上っている。
「あそこは……。」
グレンが呟く。
「…………。」
アミークラが鋭い眼で破壊された場所を睨む。 埃の中で何者かが腕を払う。さっと白く濁った空気が払われ。
「爺さんっ!」
「ん?」
ヴォルフが声の下した方向を見る。
「!?」
ヴォルフは階下の光景を見ると、三階の廊下から一階の玄関ホールに向かって吹き抜けを飛び降りた。すたっと着地したヴォルフにアミークラが無言で魔力弾を放つ。
ズドーンッ!!
轟音と共に壁が吹き飛んだ。
「!?」
アミークラが振り返えると、いつの間にかヴォルフがアナスタシアとプリシアの傍らにいる。倒れ伏す二人の胸に手を当て鼓動を確認すると、幾分か安心した表情になる。
「…………はっ!」
ヴォルフの両手から光が溢れる。その手をアナスタシアとプリシアの身体に添える。
「ちぃっ!」
アミークラがヴォルフに向かって氷矢を複数射出する。しかし、光の壁によって全て防がれてしまう。
「ふむ……。」
数秒の間、二人に触れていたヴォルフが立ち上がる。アナスタシアとプリシアはまだ意識は戻らないが、負わされた傷はだいたいが治っていた。
「グレンよ、手短に説明してくれぬか?」
ヴォルフがグレンの方に向かってゆっくり歩きながら言う。
「ぐっ……爺さん、あんた今まで……。」
「すまんかったの。どうやら儂のおらん間に大変な事になっとるようじゃな。」
「ああ、まあな。簡単に言うと、あの秘書さんが俺らを皆殺しにしようとしてるって事だ。」
「ほう、なるほどのぅ。」
ヴォルフが静かに言う。しかしその眼はアミークラを見据えている。
「あの者は?」
ヴォルフがガトーの事を尋ねる。
「秘書さんを狙ってやって来た刺客だよ。今は共闘中だがな。」
「そうか……。だいたい事情はわかった。」
ヴォルフがグレンの肩に手を置く。
「おっ!」
アナスタシア達と同じ様にグレンの傷も癒すヴォルフ。
「応急処置ですまぬな。」
「いや、助かったぜ。」
立ち上がりながら礼を言うグレン。手を握ったり開いたりを繰り返す。
「ふむ、では二人を守っていてくれぬか。」
アナスタシア達を見ながらヴォルフが言う。グレンが微かに目を見開くとヴォルフの方を見る。
「ちっ……。足手纏いかよ。」
グレンが苦笑しながら言う。
「フォフォフォ。いやいや、遅れてしまった罪滅ぼしじゃよ。皆は少し休んでいてくれぬか。」
「はいはい、そういう事にしておくぜ。」
グレンがヒラヒラと手を振りアナスタシア達の所に歩いていく。
「お主も……敵の敵は見方と言うことでよいのかのぅ?」
今度はガトーの方に歩いていくヴォルフ。
「この期に及んでお前達と闘う必要はない。敵は奴のみだ。」
「ふむ。それは良かった。」
ガトーの肩に手を置くヴォルフ。
「これは……!?」
自らの傷が凄まじい速度で癒える事に驚くガトー。この老人が並みの魔術師ではないことを悟る。
「すまんが、お主もグレンと共に二人を守ってやってくれぬか。」
「……………承知した。」
ガトーもアナスタシア達の元に向かう。
「さて……。」
ヴォルフがアミークラを見る。そしてアミークラはずっとヴォルフを睨んでいた。
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