姫様と暗闇
アナスタシアは暗闇にいた。全身の痛みに気を失ったのか。絶望的な状況からの逃避か。無力な自分への怒りか。迫り来る死への恐怖か。とにかくアナスタシアは暗闇にいた。思考が纏まらない。自分の激しい呼吸だけが聴こえる。心臓が早鐘を打つ。泣いているのか怒っているのか怯えているのかわからない。やがて……アナスタシアの意識は闇に吸い込まれて消えた。
「やめろーー!!」
グレンが張り裂けんばかりに叫んだ。火球はアミークラの嗤う顔を照らしながらアナスタシアとプリシアへと向かって飛び、二人を呑み込んだ。グレンは地に顔を伏せ床を殴り付ける。
「ふふふふふふ……安心して。次はあな……!?」
グレンを見下し嗤うアミークラがアナスタシア達がいた方を振り向く。
「え?」
目の前の光景はアミークラの理解を越えていた。アナスタシア達を呑み込み屋敷の壁ごと破壊し突き進む筈だった大火球はアナスタシア達の前で止まっている。
「どういう……こと?」
思わず呟くアミークラ。目を見開き凝視すると灼熱の火球はアナスタシアの直前で黒い影?靄?とにかく黒い不定形なものに受け止められていた。
「なっ……なんなの!?」
アミークラが初めて焦りをみせる。火球を受け止めいた黒い影はまるで掌を握る様に形を変えると、灼熱の球は霧散した。
「バッ……バカな……。」
驚愕するアミークラ。
「な、なんなんだ……ありゃぁ。」
顔を上げたグレンも状況が理解できない。とりあえず二人は生きているようだ。
「ぐっ!なんなのよっ!」
アミークラが数十本もの氷矢を放つ。しかしまたしても黒い影に蹴散らされる。よく見ると影はアナスタシアの背中から伸びていた。
「おいおいおいおい……あいつ、どうしちまったんだ……。」
グレンが戸惑うのも無理はない。
アナスタシアは先程と同じ姿勢のままプリシアを抱き膝をついている。その眼は赤い光を放っていた。口からは低く響く唸り声のような音が発っせられている。
「ちぃっ!」
先程からアミークラがありとあらゆる魔術攻撃を放っているが尽く防がれている。
「もうっ!なんだっていうのよっ!」
己の理解を越える状況に苛立つアミークラ。するとアナスタシアが赤く光る眼でアミークラを睨んだ。
「ひっ!?」
空気を振動させる程の眼光。アミークラが後退る。
「え?」
しかし、突然アナスタシアの背から伸びていた黒い影が薄くなり始める。赤い眼光も消えかけている。
「な……なに?」
アナスタシアが唸り声をあげると影は身体の中に消え、眼光もなくなる。アナスタシアはプリシアを抱いたまま倒れ伏した。
「ナ、ナーシャ……。」
グレンが声を漏らす。
「消えた…………。」
アミークラが茫然としながら呟くと、
「ふ、ふふふ……。そう……消えたのね……。ふふふ…。」
自分を落ち着かせるように嗤うアミークラ。
「ふ~ん。消えちゃったんだ。残念ね、助かったかもしれないのに。」
冷静さを取り戻したアミークラが言う。
「じゃあ今度こそ死にましょうか。」
片手を天に翳すアミークラ。
「てめえ!やめやがれ!」
「うるさいっ!」
アミークラがグレンに向けて手を振り下ろすと氷矢が降り注ぐ。
「がぁっ!」
手足を串刺され叫ぶグレン。今度はアナスタシア達に掌を向けるアミークラ。
「死ね。」
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