姫様、窮地に立つ
呆気にとられるアミークラ。一瞬、我が身に起こった事が信じられなかった。
「とりゃっ!」
「ぬんっ!」
両側からアナスタシアとガトーが渾身の一撃を放つ。その剣と拳がアミークラに届かんとした時、アミークラの身体から紫色の光が溢れ弾けた。
「なっ!!」
咄嗟に放たれた魔力によりアナスタシア達は弾き飛ばされた。
「ぐわっ!」
「ごほっ!」
壁や柱に激突し呼吸が止まる。
(くっ……もう少しだったのに……!)
千載一遇の好機を逃し悔しがるアナスタシア。剣を支えにしてなんとか立っている。
「はぁはぁはぁ……。」
なんとか呼吸を整えながら辺りに視線を向ける。
(もう一度……。)
しかし、視線の先にいたグレンもガトーも膝をついて肩を上下させ呼吸している。
(無理か……!)
アミークラを見やると不気味な程動きがない。
「…………。」
アミークラはキョトンとした表情で己の右腕を見ている。その眼に映るのは裂けたローブの右腕部分。そして微かに走る赤い線。
(な、なんだ……?)
アナスタシアがアミークラのただならぬ様子に唾を飲む。
「ふふ……。」
アミークラが嗤う。そして自らに傷をつけた相手を見る。
「……!!」
アナスタシアの背に悪寒が走る。
「ふふふ。死になさい。」
アミークラがアナスタシアに向けて特大の氷の矢を放った。
(くっ!動けっ……!)
しかし先程のダメージが大きく立っているのがやっとのアナスタシア。剣を構える力さえない。思わず目を瞑るアナスタシア。
「ダメーー!!!」
飛び込んできたプリシアがアナスタシアの前に立つ。
「ダメっ!プリシアっ!逃げてーっ!」
アナスタシアの悲痛な声が響いた。高速で射出された氷矢は杖を翳したプリシアの眼前で四散する。
「なに?」
予想外の出来事に流石のアミークラも驚く。プリシアの前には淡い光の壁が出現していた。
「プリシア…………。」
「姫様…………。」
消え入るような声でプリシアは呟くと、その場に倒れた。
「プリシアっ!」
プリシアを腕の中に抱くアナスタシア。その顔に耳を近づけると微かに呼吸をしているのが確認できた。
「ふふふ……たいしたお嬢さんだわ。でももう魔力切れね。」
既に落ち着きを取り戻したアミークラが言う。
「仲良しの二人は一緒に逝かせてあげる。」
アミークラがボソボソと何かを呟くと、空中に大きな灼熱の火球が出現する。
「ここまで頑張ったご褒美に、私の本気を見せてあげる。」
周囲の温度が上がる程の特大の火球。
「ぐっ!二人とも逃げろっ!くそっ!てめえ!」
グレンが悲壮な表情で叫ぶ。
(どうする?どうする?どうする?)
アナスタシアは自問する。今の自分にはプリシアを抱いて逃げるのは無理だ。プリシアを置いて逃げる事など全く思い浮かばない。立ち上がろうと両足に力を入れるが自分の足ではないかのように力が入らない。
「……………。」
アミークラが何か言っているが最早聴こえない。自分達に向かって放たれた灼熱の球がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
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