姫様に増援
「姫様っ!」
プリシアが叫ぶ。アナスタシアが両脚から血を流し倒れている。アナスタシアの背後の壁が大きく破壊されているところを見ると、壁に激突したようだ。
「姫様っ!姫様っ!」
プリシアの声は悲壮感を帯び、眼には涙が浮かんでいる。アナスタシアに駆け寄り胸に手を当てる。
トクンットクンッ……。
鼓動が伝わる。
「い、生きてる……!良かった……。」
プリシアへ涙声で言うと、すぐに治療を始める。神経を集中すると両掌から光が溢れる。スッーと意識が遠退く感覚。先程グレンを治したばかりだ。短時間で二度の治癒魔術は今のプリシアには負担が大きい。
(しっかりしてっ!姫様をお助けするのよっ!)
気力を振り絞り治療を続けるプリシア。アナスタシアの浅かった呼吸が次第に深く落ち着いたものへと変わる。
(もう少し……もう少し……。)
「!?」
プリシアの背後から影が伸びた。慌てて振り返るプリシア。アナスタシアを治すのに集中しすぎて背後の気配に気付かなかった。
「グ、グレンさん!」
「はぁはぁ……ナーシャは?」
グレンがやや乱れた呼吸で尋ねる。
「傷が深くて気を失っていますが……大丈夫、生きてます。」
プリシアが治療しながら答える。
「そうか、良かった。どうやら止めを刺さずに行っちまったようだな。」
グレンが辺りを見回しながら言う。階下の闘いを思うと不思議な程静かだ。
(しかし……なんだ、この嫌な空気は……?)
「そういや、爺さんは?」
「わかりません。もしかしたらヴォルフ様が追い払ってくれたんでしょうか?」
グレンがヴォルフの部屋の前まで歩いていく。
「爺さんっ!爺さんっ!いるかっ!」
ドアをノックするが応答はない。ガチャガチャとドアノブを回しても鍵が掛かっているのか開かない。
「どうなってんだ……?」
グレンがプリシア達の元に戻ってくると、
「ん……んん……。」
アナスタシアが眉間に皺を寄せ意識を取り戻す。
「プ、プリシア…………。」
「はい!良かった~。」
プリシアがアナスタシアに抱きつく。
「あれ?私……。」
「眼が覚めたか?」
「グレン?」
アナスタシアは気を失うまでの記憶を辿る。
「そうか……私……。」
(負けたのか……。)
アナスタシアが唇を噛む。
「敵はどうしたんだ?」
「わからない……。」
「ヴォルフ様でしょうか?」
「だったらナーシャをそのままにはしとかないと思うが……。」
アナスタシアが壁に手をつき立ち上がろうとする。
「あっ!まだ……。」
「いや、大丈夫だ。ありがとうプリシア。」
まだ両脚が痛むが動けない事もない。
「エマは大丈夫?」
「は、はい。隠し部屋にルードさんと一緒に隠れてもらってます。」
「隠し部屋か。そんなのがあったのか」
「親父さんと秘書はどうしたんだ?」
グレンがプリシアに尋ねる。
「ルードさんがロイドさんの部屋に行ったみたいなんですが、鍵が掛かっていて返事もなかったらしいです。」
「なんだそりゃ。爺さんと同じじゃねーか。」
「アミークラさんはわかりません。一度もみませんでした。」
アナスタシア達が話していると廊下の奥にある部屋のドアがゆっくり開いた。
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