Interlude
頭を抱えしゃがみこんだプリシアの頭上をゴウッと風を切る音と共に侵入者の拳が通過した。
(い、今のうちっ!)
プリシアの放った閃光は侵入者の視力を一時的に奪った。プリシアは侵入者の脇を疾走する。
「くっ!そこかっ!」
侵入者の蹴りはギリギリプリシアの背中をかする。プリシアは階下のグレンの元まで走った。
「グレンさんっ!」
「プリシア、無事か?」
「はい、私は大丈夫です。」
プリシアがグレンの傷を負った箇所に手を当て次々と治癒していく。プリシアの手からは青白い光が発せられている。
「すまん、助かった。ナーシャは?」
「今、三階で闘ってます。グレンさんに援護を頼みたくて……。」
「なるほど……そういう事か。ちっ!情けねぇ……。あいつ一人で手一杯だぜ。爺さんは?」
「わかりません。この騒ぎに気付いて加勢して下さっていればいいのですが。」
「そうだな……ああ、もう十分だ。助かったぜ。」
プリシアの魔術で回復したグレンが手を握ったり開いたりをしている。
「悪い、先にナーシャのとこに行ってやってくれ。俺もすぐ行く。」
「わかりました。グレンさんもお気をつけて!」
プリシアが三階に向けて階段を上がっていく。
「さて……。」
グレンが二階の廊下まで来ると、漸く視力が戻ってきたのか侵入者がグレンの方に顔を向けた。
「よう、悪いな二対一になっちまって。それくらいアンタは強い。」
侵入者は無言で構える。
「お互い急がねぇといけねーしな。」
グレンも腰を落とし中段に構える。いくらプリシアに回復してもらったとはいえ完全ではない。体力の削りあいでは勝ち目はない。次で決めなければ。侵入者を見据えるグレン。
「名を訊きたい。俺はグレンだ。」
しばしの沈黙の後、
「ガトー。」
とだけ言うと、ビュンっと目の前に迫った。振りかぶられた拳が正確にグレンの顔面を捉えている。グレンはその拳を瞬きせずに見据える。直撃する刹那、最小限の動きで僅かに頭部を左にずらす。風切り音を間近で聴く。右頬がすっと切れる感触があった。全体重を乗せた拳打をかわしたグレンは両掌を開いた状態で手首を合わせ、ガトーの胴に当てる。
"虎吼"
咆哮のような音とともにグレンの両掌から衝撃波が放たれる。
「ぐぅはぁぁっ!!」
ガトーが血を吐き廊下の端まで吹き飛ばされた。けたたましい音と共に壁に衝突しそのまま倒れるガトー。
「はぁはぁはぁ……。」
右頬から血を流しながら倒れたガトーを見つめるグレン。息を整えると背を向け三階へと走る。
(ナーシャ、プリシア、無事でいろよ……。)
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