姫様と侵入者
キーンッ!
金属音が響いた。
「ぐっ……!」
飛び出して来た影は握った短刀でアナスタシアに斬りかかり、剣で防がれると即座に蹴り飛ばした。アナスタシアは蹴られた瞬間後方に跳び威力を殺す。
「ひ、姫様っ!」
「大丈夫っ!」
瞬時に立ち上がり剣を構えるアナスタシア。黒ずくめの侵入者と向かい合う。
「嬢ちゃん達、ナッシュを殺ったのはお前らか?」
侵入者が問いかけてきた。どうやら男のようだ。
「ナッシュ?何のことだ?」
アナスタシアが剣を構えたまま問い返す。
「そうか、ならいい。あいつがお前ら程度に殺られるとは思えんしな。」
「なにを言っている?お前達こそエマを拐いにきたんだろ!」
アナスタシアの問いに黒ずくめの男は意外そうに答える。
「エマ?ああ、あの娘か。今更なにを……。」
どうも話が噛み合わない。
「まぁいい。ナッシュの仇はとらせてもらう。殺ったのはお前らの仲間だろ。」
男の言っている事はわからないが、戦いは避けられないらしい。アナスタシアが剣を振りかぶり大きく踏み込む。
「はぁ!」
気合いと共に振り下ろした剣は空を斬る。身体をずらし残撃を避けた男は回転しながらアナスタシアの首筋に短刀を突き立てる。
「しっ!」
今度はアナスタシアが上体を傾け短刀を避けると、男の脇腹に蹴りをお見舞いする。
「ちぃっ!」
男はアナスタシアの脚を掴むと、壁に向かって放りなげた。
「うわぁ!」
壁に叩きつけられたアナスタシアが声をあげる。すかさず男がアナスタシアの顔面に向かって蹴りを放つ。それを床を転がり避けるアナスタシア。先ほどまで顔があった壁はめり込んでいた。
「はぁはぁはぁ……。」
「姫様っ!」
プリシアがアナスタシアに駆け寄る。プリシアが杖を取り出し意識を集中する。
「これは……。」
杖から放たれた光がアナスタシアを包み込む。
「ヴォルフ様には及びませんが、少しの間なら身体が軽くなるはずです!」
なるほど、いつぞやの魔物退治でヴォルフにかけてもらった魔術か。
「プリシア……いつのまに……。」
「へへへ……。」
アナスタシアの驚いた表情にプリシアが照れたように笑う。が、すぐに真剣な表情になり、
「私も援護いたします。」
と言った。
「わかった。頼んだっ!」
アナスタシアは再び男へと斬りかかる。
「なにっ!」
先ほどよりも数段動きぐ早くなったアナスタシアに戸惑う男。紙一重で切っ先をかわし短刀でアナスタシアの首を狙う。
鳴り響く金属音。数度にわたる短刀での攻撃は剣によって阻まれる。
「ちっ!魔術師が他にもいたのか!」
忌々しそうに男が吐き捨てる。力任せに剣で受けとめられた短刀を押す男。
「ぐっ!」
アナスタシアがなんとか堪える。
「ぐはっ!」
男がアナスタシアの鳩尾に膝蹴りを打ち込む。あまりの衝撃に倒れこむアナスタシア。すかさず男が短刀ー逆手に持ち、アナスタシアに突き刺そうとする。
「!?」
男に向かって数本の氷の矢が飛んできた。男がアナスタシアから離れる。男の目線の先には杖を構えたプリシアがいた。
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