姫様は眠れない
アナスタシアはベッドに仰向けになり天井を見つめていた。どうも眠れないのだ。
「よっと……!」
ベッドから起き上がりテーブルの上に置いてあるランプに火を灯す。
僅かに明るくなる部屋。椅子に座るとテーブルに肘をつき窓の外を眺める。闇の中、風に吹かれて木々が激しく揺れている。
「はぁ……。」
溜め息をつくアナスタシア。もうすぐこの護衛生活も終わる。何事もなく終わるのが一番良いとは思うが……。
「はぁ……。」
再び溜め息をつく。今の宙ぶらりんの状態はもやもやしてしまう。
(…………ん?)
気のせいか、窓から眺める中庭を影が横切った気がした。一瞬だったので見間違いかもしれない。もしくはこの強風で何かが飛ばされたか。
(どうするか……。)
アナスタシアは暫し思案した後に、着替えて剣を帯びる。どうせこのまま部屋にいても眠れないのだ。ならば見回りにがてら様子を見てこよう。アナスタシアは自室を出て廊下にでる。左右を見回すが特に異常はない。
(いや……。)
隣のプリシアの部屋のドアの下から薄明かりが漏れている。
(まだ起きてるのか。)
自分を棚に上げてアナスタシアはドアを静かにノックしてみる。少しの間をおいてゆっくりドアが開いた。
「あれ?姫様、こんな時間にどうされましたか?」
プリシアが不思議そうに尋ねる。アナスタシアは先ほど見た影の事、眠れないので館の様子を見てくる事を話す。
「そうでしたか。なら私もご一緒します。」
「え?いいよ別に。たぶん気のせいだろうし。」
「いえ、私も眠れなかったので。少し歩けば眠れるかなって。」
プリシアはそう言うとアナスタシアを部屋に招き入れ、自分は寝巻きから着替える。
「ん?本を読んでたの?」
「あっ!はい、読んでたら夢中になっちゃって。」
アナスタシアはテーブルの上にあった本を手にとる。
「魔術書?」
どうやら魔術書を読んでいたらしい。3分の1くらいの位置に栞が挟んである。
「お待たせしました。参りましょう。」
プリシアの着替えが終わり二人は手持ちランプを手に部屋を出る。
「今日は風が強いですね~。」
「だね。」
「窓がガタガタなってますね~。」
「だね。」
「姫様、怖くないですか?」
「うん。」
「そ、そうですか……。」
アナスタシアが立ち止まり振り替える。
「怖いの?」
「い、いえ!そういうわけでは!ただ、お化けがでそうだな~って。」
「お化けって……。あれ?」
「なっ!なんですか?」
アナスタシアが前方を指差す。
「ま、まさか……お化け?」
アナスタシアが唇に人差し指を当て、静かに剣を抜いた。プリシアがウンウンと何度も頷く。アナスタシアは前方の廊下の角まで光が届く位置にランプを置くと、剣を構え歩いていく。
「プリシアはここにいて。」
「は、はい!」
小声で話す二人。アナスタシアがジリジリと廊下の曲がり角へと近づいていくと、急に影が飛び出して来た。
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