姫様、なんとなく気づく
予感がした。本当に微かな変化。
(なんだ?なにか……。)
アナスタシアは中庭でいつものように剣を振っていた。
(なにか……感じる……。)
視線?敵意?そういったものをアナスタシアは感じた。確証はないし、自分は達人でもない。本当に微かな違和感だった。
(戻るか……。)
アナスタシアはいつもよりかなり早く切り上げて屋敷の中に戻った。なんとなくエマの様子が気になり部屋へと足を運ぶ。ドアをノックすると返事が聴こえた。
「おや、プリシアも一緒か。」
「あれ?どうされたんですか?」
不思議そうに尋ねるプリシア。
「いや、特に用事があったわけでもないんだけど、なんとなく何してるのかなぁって。」
エマも珍しい来客に目をパチパチしている。
「そうだ!良かったら一緒にこれやりませんか?」
プリシアの目の前にあるテーブルには何かしらの遊戯盤が置かれていた。なるほど、今までエマとこれで遊んでいたのだろう。アナスタシアは微笑みながらも辞退し自分の部屋に戻った。ベッドに倒れこみ、そのまま目を瞑る。夕食まで少し眠ることにした。
※※※※※
コンコン……コンコン……。ドアをノックする音が聴こえる。
(ん…………誰……?)
アナスタシアはゆっくりと起き上がり目を擦る。
(もう夕食か?)
窓を見ると夕日が射していた。夕食にはまだ早い時間だ。アナスタシアはふらふらと立ち上がると部屋の入り口へ向かう。ドアを開けるとヴォルフが立っていた。
「おや?お休み中でしたかな?これは失礼しました。」
「ん?いや、ちょうど良かったよ。」
アナスタシアはヴォルフを招き入れる。
「で、何か用?」
「いやなに、たいした事はないのですが……。」
ヴォルフは窓際にある椅子に腰かける。
「議長選挙まであと4日。このまま何もなければいいのですが……。」
「油断するなって事でしょ?大丈夫、わかってるよ。」
「ふむ。流石でございます。それで、先日買ってきて頂いた石でこういう物を作りましてな。」
ヴォルフはポケットから子供の拳程の大きさの水晶の欠片を取り出した。確かに先日プリシアと買い物に出掛けた際に買ったものだ。
アナスタシアは水晶を受け取るとマジマジと見つめる。
「これがどうかし…………ん?何か描いてある。」
「ふむ。買ってきて頂いた水晶に儂が魔力を込めて紋を描いたものです。たいした道具も時間もなかったので気休め程度ですが、抗魔力の作用があります。お守り代わりにお持ち下さい。」
アナスタシアは角度を変えたりしながら水晶をじっと眺める。何故急にこんなものを?もしかしてヴォルフも何か感じたのだろうか?
アナスタシアが尋ねようとすると、ヴォルフが椅子から立ち上がった。
「さて、では儂はこれで。これをプリシアとグレンにも渡して参ります。お休みの邪魔をして申し訳ありませんでした。」
「あ、ああ……。」
ヴォルフが一礼して部屋を出ていった。
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