姫様の情報収集
アナスタシア達がエマの護衛についてからもう数日がたった。その間、特に何もなく時は過ぎ去り選挙戦も終盤を迎えた。雇い主のロイドは毎日朝早くから夜遅くまで屋敷を空けており、アナスタシア達もその姿を見ることは滅多になかった。
「姫様~!ありましたか~?」
「ああ、こっちは全部買えたかな。」
今日はエマが一日中屋敷にいるというので、息抜きがてら二人は街に買い物に来ていた。旅の消耗品や服などをこの期にまとめ買いしようというのだ。
「あとは……ジイに頼まれた薬草だね。」
アナスタシアは懐からヴォルフに渡されたメモを取り出す。
「えっと~。あっ!あそこに看板が見えますよ!」
プリシアが指差す先には確かに薬草屋があった。二人は両手に買い物袋を持ちながら歩く。すると前方が騒がしい。
「ん?」
「あら?なんでしょう?」
薬草屋の向かいにあるレストランに人だかりができている。アナスタシアは店を覗いている一人に声をかける。
「あ?ああ、今あのウィルビー議員が公聴会をしてるんだよ。」
「ウィルビーってアラミス=ウィルビー?」
「あたりまえだろ。他にいるかよ。」
アラミス=ウィルビー。エマを誘拐しようとした連中の黒幕だとロイドが言っていた。
「姫様……。」
「ああ、気になるな。」
アナスタシアは人混みの中をくぐり抜けレストランの窓から中を覗いた。
「…………。」
生憎と声は聴こえないが、アラミスが身振り手振りで何かを話している。それを聴いているのは彼の支援者だろうか、しきりに拍手しているのが見えた。
「なんだ、ずいぶん人気があるんだな……。」
アナスタシアが呟くと、隣にいた男がアナスタシアに向かって言う。
「あったりめーよ!アラミス議員っていやぁ庶民の味方だからな。うちらだけじゃねぇ、貧民街の住民にも手を差しのべるんだからそりゃ人気者だぜ!」
「あ、ああ……そうなの?」
ロイドから聴いた話だと極悪人だと思っていたが、どうやら一概にそうとは言えないらしい。
「姫様、どうでした?」
人を掻き分け戻ってきたアナスタシアにプリシアか尋ねる。
「うん、例のアラミス=ウィルビーがいた。」
「ええっ!」
アナスタシアは先程聴いた話をプリシアにもする。
「それは……。どうしてそんな立派な人が……。」
「まあ、色々事情がありそうだね。」
そんな話をしていると歓声が上がった。どうやらアラミスが店から出てきたらしい。店を覗いていた人々が一斉にアラミスに握手を求める。
「アラミスさん!絶対に議長になって下さい!」
「応援してます!アラミスさんならこの国を良い方向に導いてくれると信じてます!」
「あ~、ありがたや!ありがたや!儂ら貧民街の住民の話を聴いて下さるなんて。」
アラミス一人一人に握手しながら待っていた場所に乗り込む。
「皆さんっ!ありがとうございました!皆さんのご意見は無駄にはしません!今日参加できなかった皆さんも次回は是非お話を聴かせて下さい!」
アラミスは場所の窓から手を振り去っていった。
「姫様、これって……。」
「うーん。どうなってるんだ?」
二人はアラミスが去った方向を見つめていた。
御一読頂き誠にありがとうございました。
良かったらブックマークやコメント宜しくお願いいたします。