Interlude
「あっ!お父様っ!」
「おぉ、エマ。私はアミークラと出掛けてくるよ。悪いが夕食は一人でとってくれ。じゃあ行ってくるよ。」
ロイドは膝まずきエマの頭を撫でる。
「は……はい。」
ロイドはアミークラと行動を共にする事が多くなった。仕事を手伝っているのだから仕方ないのだが、エマは父を取られたみたいで少し寂しく感じた。しかし、父の変化はこれだけではなかった。父は日常の行動や服装、食事に至るまでアミークラの意見を聴くようになった。まるで信仰の対象の様に兎に角アミークラの言葉を大切にする。エマは次第に不気味に感じ始めた。父がどんどん変わっていくような。
(お父様……。)
幸い執事のルードも自分と同じ様に思っているらしかったが、立場を弁え主人に意見を言うような真似はしなかった。さらに変化があった。ある日エマが馬車で買い物に出掛けた時だ。買い物を終えて馬車に乗り込もうとすると、見知らぬ男が走りよってきた。お世辞にも綺麗とは言えない風貌の男。
「お、お前がベルナールの娘かっ!お前の親父のせいでっ!」
「やっやめろ!落ち着けって!こんな子供に言ったって。」
エマと男の間に御者が割って入り、興奮した男は後から駆けつけた仲間立ちに羽交い締めにされる。
「お、お嬢様!さあ、参りましょう!」
御者はエマを馬車に乗せ、急いで走り出した。夜、仕事から帰ってきた父にその出来事を話すと父は激昂した。
「くっ!あの貧民窟の住人どもめがっ!我々を妬みよって!」
「だから申し上げましの。あの連中は自分達が誰に生かして貰ってるか理解していないのです。」
「ああ、君の言う通りだ。君の考えてくれた区画整理案を邪魔しおって。エマにまでっ!」
怒り狂う父を怯えた目で見上げるエマ。
「お、お父様……。」
「あ、ああ……すまないなエマ。大丈夫、二度とこんな真似はさせないよ。」
いつもの笑顔に戻る父をエマは戸惑いの眼差して見る。アミークラ。確かに命の恩人ではある。しかし、この女性が来てから愛する父がどんどん知らない人になっていくような恐怖を感じた。そんなエマにとって憂鬱な日が続いたある日、この国の元首たる評議会議長が急死した。エマにしてみたらとても偉い人が亡くなったくらいにしかわからなかったが、それは大変な事件だったらしい。父も何日も仕事から帰ってこれなかった。ようやく帰って来た父はやつれた表情をしていた。後ろにアミークラを従えヨロヨロと歩きながらもエマを見ると笑顔になり、
「ただいま、エマ。」
と言う父。ルードに付き添われながら自室へと向かう。そんな父を心配そうに見送るエマにアミークラが微笑みながら言った。
「良かったわね。お父様はこの国で一番偉い人になるのよ。」
エマはその笑顔がどうしようもなく怖かった。
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