姫様とプリシアの護衛
走る馬車に揺られてエマと護衛のアナスタシアとプリシアが商業区へと向かっている。
「それで~エマさんが弾いてくれたんですけど、とても上手なんですよ!」
「ふ~ん、じゃあ今度は私もちゃんと聴きたいな。」
プリシアが昨日の事を話題にするとエマは終始照れて下を向いている。
「と言うか、私達が鬼爺さんに見張られながら労働してた時に二人は優雅にピアノにティータイムか。」
アナスタシアが頬を膨らませる。
「ふふふ、じゃあまたクッキー焼きますね。今度は三人で食べましょう。」
「え?」
エマがプリシアを見る。
「あれ?ダメでしたか?」
「あ……ううん。ダメじゃない……。」
「じゃあ決まりですね。」
すると、馬車が緩やかに止まった。どうやら目的地についたようだ。三人は御者を残して場所を降り、店へと入った。
「いらっしゃいませ。」
そこは首都内でも指折りの高級ドレス店だった。今日はエマの社交界用のドレスを買いに来たのだ。
「これはこれはエマ様。ようこそいらっしゃいました。」
スーツに身を包んだ店員が笑顔で近づいてきた。
「おや、後ろの方々は?」
「あ、えーと……私達は……新しくベルナール家で働くことになった……。」
「なるほど、そうでしたか。」
護衛というと物騒なのでアナスタシアは言葉を濁した。
「エマ様、どうぞこちらへ。新しく入荷したドレスがいくつかございます。」
店員に導かれ子供用のドレスのある場所まで移動する。
「わぁ~可愛いです!」
プリシアが声を上げる。
「気になったものがあれば、是非試着して下さいませ。」
そう言うと店員は少し離れた場所でニコニコとこちらを見ている。どうやらエマはかなりのお得意様らしい。
「…………。」
エマが並んでいるドレスをゆっくり見ていく。
「エマちゃんはいつも一人でドレスを選ぶのかい?」
アナスタシアがエマに尋ねると、コクンと頷く。
「そうなんですか?お父様は一緒に来ないんですか?」
「お父様……忙しいから……。」
「あっ……。」
プリシアがしまったという顔をする。
「ふーん、じゃあ今日は覚悟した方がいい。なんせプリシアが一緒なんだから。」
アナスタシアが悪戯っぽく笑う。
「え?」
エマがキョトンとする。
「プリシアときたら人の服を選ぶのに五月蝿いのなんのって。」
「あ~酷いですよ~!」
笑い合う二人を目を丸くして交互に見つめるエマ。
「じゃあご期待に応えて、ここは私にお任せ下さい!」
「あっ!」
プリシアがエマの手を握り、ドレスを数着抱えると試着室へ歩いていく。
「え?え?え?えー!?」
エマの声が店内に木霊する。
アナスタシアが楽しそうに二人を眺めていると、先程の店員が声をかけてきた。
「ははは、エマ様のあんな表情は久し振りに見ましたよ。」
「え?」
「ずっと昔、奥様が生きていらっしゃった頃はお二人で買いにいらっしゃってました。エマ様も楽しそうにしていましたよ。」
「そうか……。」
「やはり、女性がドレスを選ぶ時は楽しそうにしなくては。」
店員が優しげに微笑む。
「そうだね。今日は長くなりそうだから、座ってまてるかな?」
「かしこまりました。どうぞこちらへ。お茶とお菓子もご用意えたします。」
「助かるよ。」
アナスタシアが店員についていく。
御一読頂き誠にありがとうございました。
良かったらブックマークやコメント宜しくお願いいたします。